旭川市大雪クリスタルホール自主文化事業コンサートガイド

『Concierge(コンシェルジュ)』第31号(2007//)掲載

「ホワイエで発見〜クラシック音楽のメッセンジャー〜にアタック!」

 

大雪クリスタルホールのホールメートの皆様に送付されているガイドに,私のコメントが掲載されましたので紹介いたします。

 

 

日曜日の毎朝9時,“FMりべーる”「クラシックにくびったけ」のパーソナリティ,浅利豪さんへのインタビューの続編をお届けします。3月末に,浅利さんのクラシック音楽へのアプローチについてお聞きするとともに『アリス=紗良・オット&オーケストラ・アンサンブル金沢 ストリング・カルテット』の感想をご紹介してから早くも2か月が過ぎてしまいました。「年度末は何かと忙しくて…」とは,質問者の言い訳以外のなにものでもありません。それでは,浅利さんに再度ご登場いただきます。

 

【クリスタルホール】

こんにちは。ご無沙汰してしまいました。浅利さんの番組「クラシックにくびったけ」は,日曜勤務以外の日は聴くように心がけています。先日は,新年度の自主文化事業公演ラインナップからその第1弾「ジュリアード」弦楽四重奏団について,クリスタルホール自主文化事業担当職員を出演させていただいてのPR,どうもありがとうございました。ジュリアードを含め,今年のラインナップをご覧になって,率直なご感想は。

 

【浅利】

まずは「クラシックにくびったけ」をお聴きいただき,ありがとうございます。そもそも,クラシック音楽を気軽に聴いていただくことや,市内のクラシック音楽情報を提供することを目的に,ボランティアで放送しております。今後も,大雪クリスタルホールの情報は提供していきたいと思っています。さて,今年度のクリスタルホール自主文化事業の内容ですが,お世辞ではなく非常に興味深いものばかりで,期待が持てます。弦楽四重奏から始まり,女声合唱,ヴァイオリンリサイタル,ブラスアンサンブル,ピアノリサイタルと,まずはバランスが取れているという印象です。さらには,クリスタルホールの音響を活かすことのできるラインナップと言えるのではないでしょうか。そして,ジュリアード弦楽四重奏団が筆頭格となりますが,著名な演奏家や団体が旭川で聴くことができるのは,市民にとっても素晴らしいことだと思います。

 

【クリスタルホール】

そう言っていただけると大変うれしく思います。旭川は合唱と吹奏楽の音楽人口が多いという事に特に注目して,自主文化事業公演としては6年ぶりにまとまった人数の合唱団が音楽堂で歌います。平成13年度のハンガリー少年少女合唱団以来ということになりますが,7月に25人の歌姫が揃う「東京レディース・シンガーズ」のコーラス,そして10月には「NHK交響楽団トップメンバーによるブラスアンサンブルコンサート」を行います。浅利さんからみた期待とは,どのように今映っていますか。

 

【浅利】

私の番組の冒頭でも申し上げておりますが,旭川は吹奏楽や市民合唱団などの活動が盛んで「音楽の街・旭川」とも言われているほどです。特に吹奏楽については,戦前から行われている音楽大行進の影響も多大にあると思われます。そのようなことからも,クラシック音楽に親しみを持つ土台が旭川市民にはあると思っております。今回,7月の「東京レディース・シンガーズ」のコーラスには,様々な期待をしております。まずは,その美しいコーラスを楽しむこと,そして,地元で合唱をされている方にもたくさん来ていただき,ある意味では刺激を受けていただき,ある意味では勉強になると思います。また,今回の演奏予定曲目を見ますと,単にクラシックという枠にこだわらず,映画の名曲あり,ヒットソングありとバラエティに富んでいますので,大人から子供まで楽しむことができるコンサートになると容易に想像ができます。次に,10月の「NHK交響楽団トップメンバーによるブラスアンサンブルコンサート」ですが,こちらも楽しみです。クリスタルホールでは,大編成のブラスやオーケストラとなると,ホールサイズやその響きの良さが災いし聴き取りづらくなると思われますが,金管5本ですと十分にホールの能力が発揮されそうです。しかも,N響のトップメンバーの音やテクニックは,クラシックファンの方々はもちろんのこと,吹奏楽をしている学生の方々にも聴いていただきたいですね。さらに演奏曲目が,もともとブラスの以外の曲がほとんどで,その編曲にも注目したいですね。

 

【クリスタルホール】

ありがとうございます。話は番組に戻りますが,4月だったでしょうか,グリーグとシベリウスを特集されていました。私はとてもクラシックにくびったけの人生は歩んでいないのですが,グリークのピアノ協奏曲などを聴くと,私なりに新鮮なものをその曲からもらいます。しかし,日本的な歌謡曲や演歌,フォークからも自信と勇気を促される歌詞がメロディーに乗って心に響くこともあります。一例ですが,31年ぶりという‘つま恋’で昨年9月開催された吉田拓郎とかぐや姫のコンサートをテレビで見ても,ものすごく曲そのものがわかりやすく,自分なりの音楽として吸収してしまいますよね。団塊の世代には答えられない郷愁のひとときだったことが画面から伝わっていました。それを考えると,なぜ,知らない国の,しかも現実には対話もできない作曲家の世界のことを難しく考えながらクラシック音楽に耳を傾けるのかと考えてしまいうことがあります。

 

【浅利】

難しい質問ですね。私がクラシック音楽を聴くようになったのは,前回もお話ししたとおり中学生の時でした。初めてクラシック音楽を真剣に聴いたときは,私も新鮮なものに感じられました。それもそのはずで,そもそもクラシック音楽は日本の音楽ではなく西洋の音楽で,日本に入ってきたのはわずか100年ほど前と歴史が浅いのです。単にクラシック音楽をBGM的に聴くことについては良いかもしれませんが,真剣に聴こうと思えば最初は日本古来の芸術ではないためか,堅く考えてしまうものかもしれません。そもそもクラシック音楽は,作曲家の生まれ育った世界が影響することが多いのです。例えば民族的なものやその土地の民謡,気候風土や文化,その国の情勢(政治的なものを含む),さらには作曲家自身の生き様などが大きく関係してきます。そのような状況の中で「音楽」を創造するのですが,これは日本のフォーク音楽なども同じではないでしょうか。‘つま恋’を聴いて共感するのは,その曲が作られた頃に,フォーク世代と言われる方々が生きていたから自然に入ってくるのですけれど,クラシック音楽の場合は,さすがに無理なので,その曲が作られた背景を知って聴く,例えばCDの解説を読むとか,コンサートで配られるプログラムの解説を読むとかで,その曲が単に聴くだけよりも分かりやすくなると思います。さらに,クラシック音楽の場合は,そのような背景で作られた「音楽(楽譜)」に対して「演奏(表現)」をするという行為が発生するから多少複雑になります。このあたりは,是非次回に詳しくお話ししたいですね。いずれにしろ,逆に考えると,クラシックを聴くことにより,その作曲家の人生やその国の文化・歴史などを学ぶことができるのは面白いですよ。

 

【クリスタルホール】

お話を聞いて,一つのものを新たに身体の中に吸収しようとすることは,そのものをあらゆる角度から,好奇心をもって取り組むこと,いわゆる「くびったけに」なってみる姿勢が大切であることを知ったように思います。最後に,今年はシベリウス没後50年にあたるなど,全国各地で記念コンサートがあると思いますが,浅利さんがご自分で描く今年の「クラシックにくびったけ」の生活設計とはどのようなものなのでしょうか。

 

【浅利】

6月第1週まで,エルガー生誕150周年,グリーグ没後100年,シベリウス没後50周年の各特集を行ってきました。このようなアニバーサリー・イヤーを契機に,その作曲家に注目して音楽を聴いてみるのも良いかと思いました。昨年のモーツァルトは,クラシックファンのみならず世界中が注目していたのと同様です。アニバーサリーの特集が終了したので,今後は「日本のオーケストラ」に注目した特集をしていきたいと計画しております。先ほどもありましたが,日本にクラシック音楽が入ってきたのはわずか100年ほど前ですが,現在,日本人の様々な演奏家が世界中で活躍をしております。さらには,国内には数多くのプロのオーケストラが設立されており,その数は日本オーケストラ連盟に加盟しているだけでも23団体を数え,特に東京にはN響をはじめ8団体が集中しており,1都市で8つのオーケストラを有しているのは世界でも類を見ません。世界的には,様々な一流のオーケストラがありますが,決して日本のオーケストラがそれらに劣っているとは思えない演奏を数多く披露していることを鑑みて,特集を行いたいと思っております。

 

【クリスタルホール】

ありがとうございました。これからも,コンシェルジュに時々ご登場いただき,ホールメイトの皆さんにメッセージを発信していただきたいと思います。