ジュリアード弦楽四重奏団演奏会
2007年6月4日 19時〜
旭川市大雪クリスタルホール音楽堂
<曲目>
モーツァルト作曲
弦楽四重奏曲第19番ハ長調K.465「不協和音」
バルトーク作曲
弦楽四重奏曲第3番Sz.85
シューベルト作曲
弦楽四重奏曲第14番ニ短調D.810「死と乙女」
<感想>
食べ物には好き嫌いのある人とない人とがいるのと同様,クラシック音楽を聴く人の中にも,好き嫌いがあると思う。
例えば,「古典派やロマン派の音楽は好きだけど,バロック音楽や現代音楽は好きではない」とか,「ピアノの音色は好きだけど弦楽器はあまり好みではない」とか,「室内楽や器楽曲は好きだけどオーケストラの曲や声楽曲は少し苦手」とか・・・。
実は,私もクラシック音楽に好き嫌いがある。
最近では,FMりべーるのクラシック音楽番組を担当して,極力幅広いジャンルの曲を紹介しているためか,前ほどではないにしろ,私もあるのである。
何を隠そう,私は普段,弦楽四重奏などの室内楽や弦楽器の器楽曲をあまり聴かない。
昔から,オーケストラの曲ばかり聴いていたためか,聴く機会が多くなかった。
もちろん,本当に嫌いなわけではないし,聴きたくないと思うわけではないのだが,同じ聴くなら好きな音楽を・・・,と思っていたのであるが,今回のジュリアード弦楽四重奏団演奏会を通じて今まで弦楽四重奏を聴いてこなかったことを後悔することとなった。
言ってみれば,食べ物で言う「食わず嫌い」,音楽で言う「聴かず嫌い」というところか。
前置きはさておき,この旭川でジュリアード弦楽四重奏団という高名なカルテットを聴く機会が与えられたのは,市民や周辺住民にとっても貴重なことであるが,私にとっても貴重な体験となった。
せっかく,このような有名なカルテットが来るのであれば,コンサート当日まで今回の演奏曲目やジュリアード弦楽四重奏団のCDなどを聴いて勉強しようと思い,それらを聴きまくった。
特にジュリアード弦楽四重奏団のCDについては,現在のメンバーではなく旧メンバーでの演奏で第1ヴァイオリンのロバート・マンの鮮烈さに非常に魅力を感じ,その演奏の斬新さにも驚きを感じた。
さて,当日の演奏会であるが,一言で言うと「さすが名門のジュリアード弦楽四重奏団」というところか。
そもそも弦楽四重奏という音楽は,一般的にはやや地味感じるわけであるが,ハイドン,モーツァルト,ベートーヴェン,シューベルト,ブラームス,ドヴォルザークなどの古典派やロマン派の重要なレパートリーであり,現代音楽家のバルトークやショスタコーヴィチなどにも引き継がれて多くの弦楽四重奏の作品をこの世に残している。
その理由としては,弦楽の四重奏という形式が,純粋な音楽を表現する上で最も適している形式であるからで,4つの弦楽器が単純にバランスを創り出し,音楽のコアやエッセンス,純粋性などを表す手段として作曲家達を魅了するからであろう。
そのような曲において,正に規範的であり,斬新かつ新鮮な演奏をジュリアード弦楽四重奏団は聴かせてくれた。
今回のプログラムの3曲の演奏に言えることであるが,躍動感に溢れ,一気呵成に音楽を進めながらも決して機械的,無機質になることはないのである。
メンバー4人の絶対的な信頼感に基づき曲は進行し,完璧なアンサンブルと一糸乱れぬテンポが印象的であった。
確かに,モーツァルトなどはウィーン情緒を感じさせる粋な演奏も他にはあるが,それをも超える爽快さは,前述の事前に聴いていたCD以上であったと言えよう。
さらに特筆すべきは,バルトークであった。
バルトークについては,私にとっては正直,苦手な作曲家の1人であるが,このジュリアード弦楽四重奏団の我が物としている演奏を聴くと,その曲の深さが良く理解でき,バルトークの印象を一新されてしまった。
シューベルトについては,バルトークの演奏とはまた違い,メロディアスな曲を爽快に歌い上げ,外連味(けれんみ)のない演奏が印象的であった。
さて,話は冒頭の話題に戻るが,世界的な話はわからないが,日本においては室内楽の人気はその他のクラシック音楽と比較してあまりないとのことである。
先日まで札幌で開催されていたPMF(パシフィック・ミュージック・フェスティバル)においても,フルオーケストラにおけるコンサートは満席で,ピクニック・コンサート(野外コンサート)については8千人近い聴衆とのことであるが,ことPMFの室内楽演奏会については集客に苦労しているとのことだそうである。
旭川の大雪クリスタルホールの自主文化事業においてもやはり同様で,今回についても,今年の自主文化事業で招くアーティストの中では知名度や音楽性でも間違いなくナンバー1であるこのジュリアード弦楽四重奏団でありながらも,やはり満席にならないのは少々残念である。
私のように「食べず嫌い」いや「聴かず嫌い」を解消するために,旭川クリスタルホール自主文化事業の機会を活用することをお薦めしたい。
実際,ジュリアードのネームヴァリューに惹かれてという方や,カルテットを聴いてみようという方も,今回は少なくなかったのではないだろうか。
その証拠に,演奏終了後,ロビーでのCD販売の場所が非常に賑わっていたのが何よりの証拠である。
興味を持つことは発見につながることであるので,生演奏(ライヴ)のクラシック音楽,さらにはその中でも様々なジャンルについて楽しみ,理解することを薦めたい。
特に,室内楽や器楽曲は,その編成からもわかるとおり,曲の作りがあまり複雑ではなく,一般的には聞きやすいことが特徴であり,さらには,大雪クリスタルホールというこれらの音楽に非常にマッチした音響を醸し出すコンサートホールで聴くことができるというのも,十分に魅力に値するものと考える。
<ジュリアード弦楽四重奏団>
1946年にジュリアード音楽院の教授により結成。
明快な構成力,音色に美しさ,完璧なアンサンブル,卓抜した統一感のある演奏を特色とし,アメリカを代表する弦楽四重奏団として国際的にも高い評価を得ている。
レパートリーは,クラシックから現代の作品までおよそ500曲に及んでおり,中でもバルトークの弦楽四重奏曲は,1948年のタングルウッド音楽祭で全曲演奏アメリカ初演をした記念すべき作品である。
結成60周年を迎えた2006年には,ニューヨークでのバルトーク全曲演奏会を皮切りに,アメリカ,日本などでの公演を企画。
ショスタコーヴィチ生誕100年にちなみ弦楽四重奏曲とブロンフマンとの共演でピアノ五重奏曲のCD二枚組をリリース。
1949年以来,多岐にわたる録音プロジェクトを展開し,グラミー賞など数々の賞を受賞している。
現在のメンバーは,第1ヴァイオリンがジュエル・スミルノフ,第2ヴァイオリンがロナルド・コープス,ヴィオラがサミュエル・ローズ,チェロがジョエル・クロスニック。