メンデルスゾーン作曲
劇付随音楽「真夏の夜の夢」抜粋(序曲含む10曲)
ソプラノ:ヘザー・ハーパー
メゾ・ソプラノ:ジャネット・ベーカー
指揮:オットー・クレンペラー
演奏:フィルハーモニア管弦楽団
合唱:フィルハーモニア合唱団
1960年1月 スタジオ録音
<推薦評>
この曲は,皆様ご存じのとおり,シェークスピアの戯曲「真夏の夜の夢」に音楽を付けたものであるが,作曲には紆余曲折があったようである。
そもそも,この曲は序曲(作品21)と12曲からなる劇付随音楽(作品61)の2つに分かれている。
まず序曲であるが,作曲された背景としては,姉のファニーと楽しむためにピアノ連弾曲として書かれたものを,メンデルスゾーンが17歳の時にオーケストラに編曲したものである。
17歳のときの作品とは思えない完成度を誇っており,この完成度からもメンデルスゾーンが早熟の天才と言われる所以であろう。
この序曲の主題も取り入れた中で,17年後に劇付随音楽(作品61)を作曲したもので,曲としては作品21と同61は別物となっているものの,通常の演奏会で取り上げる場合は,作品21の序曲を演奏した後に同61を演奏するスタイルが定着している。
また,作品21の序曲と同61の「スケルツォ」「間奏曲」「夜想曲」「結婚行進曲」の5曲を抜粋し,組曲として演奏されることも多い。
さて,クレンペラー指揮のこの演奏であるが,クレンペラーの一般的な印象としては,ドイツ音楽,例えばベートーヴェンやブラームスなどの曲を堅く重厚に演奏するスタイルであるが,メンデルスゾーンにおいても同様の演奏を交響曲(第3番「スコットランド」や第4番「イタリア」)では聴かせてくれている。
しかしながら,「真夏の夜の夢」は劇付随音楽で,当然,小品をつなげた曲であるので,ある意味ではクレンペラーの演奏スタイルには適合しないのではないかと思われがちであるが,ここでは一般的なクレンペラーの演奏とは離れた,違う一面を見せる演奏となっている。
その中にあって,序曲(作品21)は例外で,クレンペラーの一般的な印象に適合する演奏となっているのが面白いが,上記のとおり,元々は別物の曲であることから,理解に苦しむ必要はない。
劇付随音楽(作品61)では,極めて清潔でロマンティックな演奏を繰り広げている。
特出すべきは,何と言っても「夜想曲」である。
この美しい曲をクレンペラーは,まるでわが娘のように愛情たっぷりと優しく抱きしめる(包み込む)ような演奏を展開し,聴き手を極上の気分・幸福感にさえしてくれるのである。
もちろん,このような印象は全曲を通じて感じるわけであるが,オーケストラや合唱のうまさ,さらにはソリストの秀逸さも目立つのであるが,これもクレンペラーの力が大きいのではなかろうか。
この曲のこのような演奏は,他に類を見なく,演奏スタイルが違うがペーター・マーク指揮の演奏と双璧であろう。
ただ,残念なのは,せっかくの演奏であるが,抜粋版で全曲版ではないことである。
そもそも,全曲版自体も多く販売されていないのではあるが,このような演奏で全曲を聴きたかった。
せっかくなので,この曲について,クレンペラー盤以外のお薦めのCD(いずれも抜粋版)を録音年代順に列記しておく(あくまでも私見であるが)。
ペーター・マーク指揮 ロンドン交響楽団 1957年
ペーター・マーク指揮 東京都交響楽団 1958年
チャールズ・マッケラス指揮 オーケストラ・オブ・ジ・エイジ・オブ・インライトゥンメント 1987年