2005年7月24日放送 ☆☆☆☆ ★

ベートーヴェン作曲

  交響曲第4番変ロ長調作品60より第4楽章

  指揮:オットー・クレンペラー

  演奏:バイエルン放送交響楽団

  1969年10月 ライヴ録音

<推薦評>

ベートーヴェンの交響曲といえば,副題の付いている「英雄」「運命(正式な副題ではない)」「田園」「合唱付き」がやはり人気があり,その他には第7交響曲なども人気が高い。

この第4交響曲は,前記の第3番「英雄」と第5番「運命」に挟まれたある意味では目立たない交響曲と言えよう。

音楽的には,ハッピーエンドで終わるベートーヴェンの典型的な形を持った交響曲で,非常に愛らしい雰囲気も持ち合わせている名曲である。

この交響曲が作曲されたのは1806年で,この年はベートーヴェンとしてもいわゆる「当たり年」であり,この前年や前々年も多くの傑作を世に出している。

1806年には,ピアノ協奏曲第4番,ヴァイオリン協奏曲,さらには弦楽四重奏曲のラズモフスキー第1番〜第3番などがあり,前年は唯一のオペラである「フィデリオ」,ピアノの「熱情」ソナタ,前々年はピアノの「ワルトシュタイン」ソナタと傑作ばかりで,一般的にこの時代を「ベートーヴェンの傑作の森」と言っている。

さて,このクレンペラー指揮バイエルン放送交響楽団の演奏であるが,現在,国内盤はなく輸入盤も製造中止となっている代物で(平成18年8月現在),私が購入したのは昨年(平成17年)7月に,何と韓国のCDショップに1枚だけ在庫があり,即購入してきたものである。

非常に評判の良かったCDであったため,是非手に入れたいと長年思っていたもので,発見したときは興奮したものであった。

演奏内容であるが,ベートーヴェンは,自身の曲がこれほどまで大きなスケールとなることは予想もしなかったのではないだろうか。

とにかくそのスケールの大きな演奏に,まずもって驚かせられる。

クレンペラーの演奏スタイルについては,晩年になるほどゆったりとしたテンポによる演奏が多くなり,それでいて緩みが感じられないのが特徴であるが,正にそのような演奏スタイルを象徴するのがこの演奏である。

音符の1つ1つが生きており,圧倒的な説得力で聴き手に迫ってくる演奏である。

いつものことであるが,クレンペラーの指揮には派手さはないが,緊張感が張りつめ,弦楽器が激しく唸り,ティンパニが強打される。

第2楽章こそ愛らしさを感じるものの,他の楽章はクレンペラーの独壇場で,この第4楽章においても厳粛な雰囲気で演奏が進行される。

オケのバイエルン放送響についても,クレンペラーの意図を全て把握し,極上の音楽を造り上げている。

ムラヴィンスキー指揮レニングラード・フィル(日本ライヴ)の贅肉が一つもない鬼気迫る演奏や,クライバー指揮バイエルン国立管弦楽団の洗練されたオーケストラ・ドライヴが聴ける演奏など,名演を数々聴いていたが,このようなスタイルでこの第4交響曲を聴かせる演奏は初めてで,先に挙げた2つの演奏と並び後世に残すべき大変な名演であると言える。

なお,録音についても,ライヴにも関わらず非常に鮮明で,このような名演を十分に演出していると言っていいであろう。