2005年9月11日放送 ☆ ★★

ムソルグスキー作曲(ストコフスキー編曲)

 交響詩「はげ山の一夜」

  指揮:レオポルト・ストコフスキー

  演奏:ロンドン交響楽団

1966年 スタジオ録音

<推薦評> 

「はげ山の一夜」というと,通常はリムスキー=コルサコフ編曲のものがよく演奏されるが,最近では原典版の演奏やCDも多くなってきた。

この演奏は,リムスキー=コルサコフが編曲したものを,さらにストコフスキーが独自に編曲したものである。

この曲の原型は,メグデンの戯曲「魔女」に基づき構想された歌劇「はげ山」であり,1860年頃に作曲したピアノ曲「聖ヨハネ祭前夜のはげ山」で「聖ヨハネ祭の前夜に不思議な出来事が起こる」というヨーロッパの言い伝えの一種,「聖ヨハネ祭前夜,はげ山に地霊チェルノボグが現れ手下の魔物や幽霊,精霊達と大騒ぎするが,夜明けとともに消え去っていく」とのロシアの民話をもとに作られている。

聖ヨハネ祭夏至の夜の祭りであり,題材としてはシェークスピアの「真夏の夜の夢」と同様であると言える。

 さて,リムスキー=コルサコフ編曲のヴァージョンは,原典版と比較しておどろおどろしさという点では多少劣るものの,その分華やかな雰囲気のものとなっている。

ストコフスキーの編曲は,リムスキー=コルサコフ編曲のものをさらに華やかにしていると言え,派手さもある。

 打楽器は大幅に付加し,管楽器は多少なりとも下品とも言える感は否めなく,弦楽器は非常に高い音を出して,それをさらにポルタメント(ある音から別の音に移る際に,滑らかに徐々に音程を変えながら移る演奏技法)を使い,不気味な雰囲気を増長させている。

 曲の終盤のチャイムが打ち鳴らされる直前には,サスペンデッドシンバル(シンバルを吊り下げたものをバチで叩く)を使い,強烈に崩壊する様を描き出している。

正に,悪霊たちの宴が完全に破綻するところを描き,大迫力となっている。

そして,最後は平和な朝を迎えるのであるが,それ以前の雰囲気が強烈なのと比較し,何とも爽やかな朝であり,その対比がいかにもストコフスキーらしい編曲ではないか。

 さて,ストコフスキーの「演奏」についてであるが,その編曲を十二分に発揮させるだけでなく,プラスして誇張している演奏である。

 テンポの伸び縮みはもちろんのこと,急な変更は当たり前,ストコ節全開と言えよう。

前述の「はげ山の一夜」のストーリーに相応しく,上品な出来とは決して言うことができないが,とにかく派手で大げさで,聴く者を楽しませる内容の演奏となっており,正にストコフスキーのエンターテイメント性が存分に発揮されたもので,そして自身の編曲の意図を申し分なく発揮した演奏である。

ストコフスキーの編曲した曲は他に数多くあり,同じくムソルグスキーの組曲「展覧会の絵」(ラヴェル編曲版がスタンダード)などは有名で,また,バッハの「トッカータとフーガ」を初めとするオルガン曲も多く編曲しているので,是非御視聴あれ(もちろん,ストコフスキーの演奏で)

余談であるが,彼の編曲したバッハのオルガン曲に関して,彼は1962年に,面白い談話を残しているので,ここに記したい。

『彼(バッハ)が私(ストコフスキー)の編曲をどう思うか。それは私の死後の運命がどうなるか分からないが,とにかく行った先で彼に会ってみないことには何とも言えない。』