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ムソルグスキー作曲(ストコフスキー編曲) 指揮:レオポルト・ストコフスキー 演奏:ロンドン交響楽団 1966年 スタジオ録音
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<推薦評> 「はげ山の一夜」というと,通常はリムスキー=コルサコフ編曲のものがよく演奏されるが,最近では原典版の演奏やCDも多くなってきた。 この演奏は,リムスキー=コルサコフが編曲したものを,さらにストコフスキーが独自に編曲したものである。 この曲の原型は,メグデンの戯曲「魔女」に基づき構想された歌劇「はげ山」であり,1860年頃に作曲したピアノ曲「聖ヨハネ祭前夜のはげ山」で「聖ヨハネ祭の前夜に不思議な出来事が起こる」というヨーロッパの言い伝えの一種,「聖ヨハネ祭前夜,はげ山に地霊チェルノボグが現れ手下の魔物や幽霊,精霊達と大騒ぎするが,夜明けとともに消え去っていく」とのロシアの民話をもとに作られている。 聖ヨハネ祭は夏至の夜の祭りであり,題材としてはシェークスピアの「真夏の夜の夢」と同様であると言える。 さて,リムスキー=コルサコフ編曲のヴァージョンは,原典版と比較しておどろおどろしさという点では多少劣るものの,その分華やかな雰囲気のものとなっている。 ストコフスキーの編曲は,リムスキー=コルサコフ編曲のものをさらに華やかにしていると言え,派手さもある。 打楽器は大幅に付加し,管楽器は多少なりとも下品とも言える感は否めなく,弦楽器は非常に高い音を出して,それをさらにポルタメント(ある音から別の音に移る際に,滑らかに徐々に音程を変えながら移る演奏技法)を使い,不気味な雰囲気を増長させている。 曲の終盤のチャイムが打ち鳴らされる直前には,サスペンデッドシンバル(シンバルを吊り下げたものをバチで叩く)を使い,強烈に崩壊する様を描き出している。 正に,悪霊たちの宴が完全に破綻するところを描き,大迫力となっている。 そして,最後は平和な朝を迎えるのであるが,それ以前の雰囲気が強烈なのと比較し,何とも爽やかな朝であり,その対比がいかにもストコフスキーらしい編曲ではないか。 さて,ストコフスキーの「演奏」についてであるが,その編曲を十二分に発揮させるだけでなく,プラスして誇張している演奏である。 テンポの伸び縮みはもちろんのこと,急な変更は当たり前,ストコ節全開と言えよう。 前述の「はげ山の一夜」のストーリーに相応しく,上品な出来とは決して言うことができないが,とにかく派手で大げさで,聴く者を楽しませる内容の演奏となっており,正にストコフスキーのエンターテイメント性が存分に発揮されたもので,そして自身の編曲の意図を申し分なく発揮した演奏である。 ストコフスキーの編曲した曲は他に数多くあり,同じくムソルグスキーの組曲「展覧会の絵」(ラヴェル編曲版がスタンダード)などは有名で,また,バッハの「トッカータとフーガ」を初めとするオルガン曲も多く編曲しているので,是非御視聴あれ(もちろん,ストコフスキーの演奏で)。 余談であるが,彼の編曲したバッハのオルガン曲に関して,彼は1962年に,面白い談話を残しているので,ここに記したい。 『彼(バッハ)が私(ストコフスキー)の編曲をどう思うか。それは私の死後の運命がどうなるか分からないが,とにかく行った先で彼に会ってみないことには何とも言えない。』
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