2006年1月29日放送 ☆☆☆  ★★

モーツァルト作曲

 ピアノ・ソナタ第11番イ長調K.331「トルコ行進曲付き」より第3楽章

  ピアノ独奏:ファジル・サイ

  1997年9月 スタジオ録音

<推薦評>

 放送では第3楽章「トルコ行進曲」の聴き比べの特集(第1回モーツァルト特集)であったので,当該楽章のみを聴いていただいたが,本来であれば全曲を聴いていただきたかった演奏。

 この曲が収録されているアルバムは,フランスで10万枚以上のセールスがあったそうであるが,そのような大センセーショナルもうなずける内容のCDである。

放送では,全曲をお聴きいただいたのはリリー・クラウスの模範的な美演であったが,私はむしろファジル・サイやエリック・ハイドシェックあるいはグレン・グールドの演奏を好む。

特に第3楽章については,未だかつて聴いたことのない演奏スタイルを持つこの演奏は,聴く人を引きつけるのに十分な演奏である。

演奏開始とともに,既にサイの世界に入っており,「自由奔放」「軽妙闊達」という言葉が正に合致する演奏で,きらびやかな色彩感豊かな演奏となっている。

しかも,音という名の情報が湯水のごとくが溢れ出し,速度指定はAllegrettoあるにも関わらず,そんなものはお構いなし(もっともハイドシェックの演奏はサイよりも速いのが驚きであるが・・・)

グールドの演奏時間の何と半分ほどで駆け抜ける快演であるが,意外にもグールドとの共通点もある。

演奏スタイルではなく,曲に合わせて歌っている声が正にうなり声(鼻歌)で,グールドも真っ青(演奏スタイル上,聴いてる者まで口ずさんでしまいそうになる)

さらには,時に足を踏み鳴らし,怒濤の勢いで突き進む(楽譜をなぎ倒しているよう)演奏は,全く持って驚きである。

しかも,楽譜にはないトレモロ風の装飾音を自在に挿入しているほか,ところどころで聴かれる伴奏のアクセントは,トルコ生まれのサイらしい,これこそ「トルコ風」なのかもしれない(歌劇「後宮からの逃走」を思い出す)

通常であると,わざとらしく聴こえてしまう「タメ」も,このような演奏では逆に音楽に血を通わせる要因にもなって,豊かさや濃さを演出している。

この作品や,以前番組でもかけた「キラキラ星変奏曲」などのモーツァルトの作品をサイが弾くと,まるで彼のために書かれた作品と思われてならないのと同時に,その演奏を聴いていると,映画「アマデウス」で描かれているモーツァルト像に重ねてしまうのは私だけであろうか。

 サイのCDは,この演奏のほかに,チャイコフスキーのピアノ協奏曲第1番(カップリングはリストのピアノ・ソナタ)を持っているが,最初に買ったこのCDの印象からは随分おとなしいものとなっている。

 昨年(平成17年)5月に,モーツァルトの新譜,しかもピアノ協奏曲集(第12番・第21番・第23番)が発売になったが,まだ未聴であり,きっとサイの世界のモーツァルトが展開されていることを期待し,現在,注文中である(予想どおりの演奏であれば,番組内でも取り上げる予定である)

 さらには,昨年12月に輸入盤ではあるが,ベートーヴェンのピアノ・ソナタ集(第17番・第21番・第23番)が発売となっており,こちらも注文中で,サイがベートーヴェンのソナタをどのように料理するのかが注目で,特に「熱情ソナタ」は,彼の演奏会レパートリーでもあることから,非常に楽しみなCDである。

 いずれにしても,モーツァルトの曲を楽しみ,モーツァルトの遊び心を具象化しているご機嫌な「トルコ行進曲」である。

 ハイドシェックと並んで,是非とも演奏会を聴きに行きたいピアニストのひとりである。

最後に最近知ったのであるが,フォルテ・ピアノで面白い「トルコ行進曲」が出たとのこと。

アンドレアス・シュタイアーの演奏で,トルコ行進曲で唖然とするほどの斬新なアプローチをしているらしい。

まだ未聴だが,早速注文しておりますので,届き次第内容によっては放送で取り上げたい。

なお,当CDはモーツァルトのピアノ・ソナタ第10番から第12番までが収録されている。