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モーツァルト作曲 指揮:マルク・ミンコフスキー 演奏:ルーヴル宮音楽隊 2005年10月 ライヴ録音
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<推薦評> 昨年(2006年)は生誕250周年のモーツァルト・イヤーで,数多くのモーツァルトのCDの新譜が発売されたが,その中でも注目していたCDがこれである。 CDのカップリングは,交響曲第40番と歌劇「イドメネオ」のバレエ音楽である。 録音は,一昨年の10月にグルノーブルで行われたライヴ録音のようで,録音状況は非常に良いものである。 「ルーヴル宮音楽隊」というオーケストラは,指揮者のミンコフスキーが組織したオーケストラで,元々はパリで活動をしていた古楽器オーケストラであるが,現在はグルノーブルに本拠地に活動している。 このCDの演奏を聴いて,まず感じることは,オーケストラの楽器配置である。 第1ヴァイオリンと第2ヴァイオリンが向かい合うという「両翼配置」を取っており,これ自体は現在,それほど珍しい配置ではなくなったが,その間を埋めるはずの低音担当のヴィオラとチェロが中央後ろ側に下がり,その代わりに木管楽器が最前列に出ているという,非常に面白い楽器配置を取っている。 ちなみにコントラバスは,木管楽器の後ろの中央,つまり,木管楽器は左右にヴァイオリン,後ろをヴィオラ・チェロ・コントラバスと,弦楽器に囲まれる配置となっており,音響的にも非常に興味深いものである。 その結果,2曲の交響曲もバレエ音楽も木管楽器が非常に目立ち,今までにない音楽を創造しているところに,このCDの成功の基があると言っても良いのではないだろうか。 さらに,ミンコフスキーは,ここで取り上げる「ジュピター交響曲」については,それにエッセンスを与える楽器として金管(トランペット)とティンパニを持ってきており,これにより,「ジュピター交響曲」が,ドラマティックでかつドラスティックに展開されているである。 さて,放送でも聴いていただいた第4楽章であるが,それまでの3楽章以上に,この演奏の魅力が凝縮されている。 最初に聴いた際の印象は,「とにかく速い!」というものであった。 しかも,単に表面的な演奏が展開されるのではなく,非常に「アク」の強いものとなっており,モーツァルト最後の交響曲であるこの曲の,しかも壮麗なこの終楽章を,見事に表現している演奏なのである。 正に,聴きどころが満載で,とてつもない推進力で引きずられてしまう,燃焼度が高い演奏である。 特に,終結部のコーダは凄まじいの一言で,最後の天にも轟くティンパニが,さらに曲を盛り上げて締めくくるところなどは,同じ古楽器の指揮者であるジョス・ファン・インマゼールをも凌ぐものである。 モーツァルトの最後の交響曲である「ジュピター」は,私も大変好きな曲であり,特に終楽章は同じモーツァルトの交響曲第36番「リンツ」のそれと同様,非常にワクワクしながら聴くことのできる楽章で,今まではこの2曲のそれぞれ終楽章のみを取り上げた場合には,フランス・ブリュッヘン指揮18世紀オーケストラの爽快で活発な胸のすくような演奏が忘れられないが,このミンコフスキーの「ジュピター」の演奏は,ブリュッヘンにも勝るとも劣らぬ演奏である。 もっとも,全曲を通じてとなると,前述のブリュッヘンの活発な演奏や,ブルーノ・ワルターのこの上ない美しさを持った演奏や,カール・シューリヒトの壮麗な演奏,ニコラウス・アーノンクールの知的な演奏,パブロ・カザルスの土臭い演奏などの名演もあることから評価が難しくなるものの,間違いなくモーツァルト・イヤーに発売されたモーツァルトの交響曲新譜のなかでは秀逸のものであり,歴代の数々の名演に肩を並べる演奏であると言えよう。 最後になるが,このCDに併録されているモーツァルトの歌劇「イドメネオ」のバレエ音楽がまた素晴らしく,魅力ある仕上がりとなっていることも見逃せない。
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