2007年7月15日放送 ☆☆☆ ★★★

 

チャイコフスキー作曲

 交響曲第6番ロ短調作品74「悲愴」より第3楽章

  指揮:イゴール・マルケヴィチ

  演奏:NHK交響楽団

  1983年1月12日 ライヴ録音

 

悲愴交響曲は,ご存じの方も多いと思うが,チャイコフスキーの最後の作品であり,それに相応しい内容の交響曲である。

チャイコフスキーの交響曲は,1番から5番までは,終楽章がどれもど派手であるが,この悲愴交響曲だけは終楽章が静かに終わる。

ただ,他の交響曲と比較し,第3楽章(終楽章の前の楽章)が非常に活発であり,ここが1つの聴きどころとなる。

この悲愴交響曲は,チャイコフスキーの中でも一番有名な曲と言っても過言ではないので,市販されているCDも多く,多くの指揮者が録音やライヴを行っている。

その中でも,昔から名盤といわれているものや,定番といわれるものなど様々だ。

例を挙げると,古くはメンゲルベルク指揮アムステルダム・コンセルトヘボウ管の奥の深い演奏や,ゴロヴァーノフ指揮全ロシア放送響の大爆演(一般的にはお薦めできません),アーベントロート指揮ライプツィヒ放送響の型破りの名演,フリッチャイ指揮ベルリン放送響の美演,切れ味鋭いムラヴィンスキー指揮レニングラード・フィルのDGスタジオ録音,コンドラシン指揮モスクワ・フィルの壮絶な日本ライヴ,終楽章が天国的な長さのバーンスタイン指揮ニューヨーク・フィルハーモニックの演奏,最近ではミッコ・フランク指揮の落ち着いた演奏や,ゲルギエフ指揮ウィーン・フィルの白熱の演奏などがあるが,それぞれ特徴のある演奏ばかりで,甲乙つけがたい。

その名だたる名演奏に,日本のオーケストラの演奏を加えたい。

それが,ここで取り上げている,マルケヴィチ指揮のNHK交響楽団演奏のライヴである。

この演奏を一言で表すと「鬼才マルケヴィチの気迫と渾身の悲愴交響曲」ということになる。

マルケヴィチの死の直前の演奏であるためか,鬼のような気迫が感じられ,お世辞にもスマートな音色とは言えない1980年代のNHK交響楽団をグイグイと引っ張り廻している。

マルケヴィチは過去に,ベルリン・フィル及びロンドン響といずれもスタジオ録音で同曲を録音しているが,さすがライヴということもあり,気合いの入り方が全く違う。

特に,ここぞという時のティンパニの打ち込みの激しさや鋭さ,N響の弦楽器の厚みも見事というほかない。

ここで取り上げている第3楽章は,正に独壇場であり,過去の名演と比較しても勝るとも劣らず,まさに慟哭の第3楽章である。

この楽章については,前記したアーベントロート指揮ライプツィヒ放送響が私のベストと思っているが,それをも凌駕するほどの演奏で,縦横無尽にテンポを変えるマルケヴィチにN響が必死に応えている。

N響の歴史の中でも,チャイコフスキーの演奏だけではなく,全ての演奏の中にあってもベストの演奏ではないだろうか。

鬼才マルケヴィチが死の直前に本領を発揮した演奏を,是非皆様に聴いてほしいものである。