2006年4月2日放送 ☆☆☆☆ ★★

ビゼー作曲

 「アルルの女」第2組

   指揮:ジャン・マルティノン

 演奏:シカゴ交響楽団

  1967年 スタジオ録音


<推薦評>

「アルルの女」の組曲は,劇付随音楽「アルルの女」から編集・編曲されたもので,第1組曲4曲,第2組曲4曲の計8曲からなっている。

第1組曲は作曲家のビゼー自身の編曲であるが,第2組曲についてはビゼーの友人であるエルネスト・ギローが,ビゼーの死後に編集・編曲したものである。

第2組曲の4曲は,「パストラール」「間奏曲」「メヌエット」「ファランドール」からなり,最も有名で人気が高いのが3曲目の「メヌエット」であろう。

余談であるが,この「メヌエット」は,実は劇付随音楽「アルルの女」からの編曲ではなく,歌劇「美しいパースの娘」からの編曲であり,人気があることからか,現在が逆に劇付随音楽「アルルの女」に編入されているという変わり種の曲であるが,名曲であることには変わりなく,この第2組曲にはなくてはならない曲ともなっており,とりわけそのメロディを奏でるフルートの美しさは,一度聴くと耳から離れないほどである。

また,第1組曲・第2組曲双方でサックスを使用するというのも,クラシックの管弦楽曲でこの時期の曲としては珍しく,このサックスが非常に重要な楽器として扱われている。

さて,マルティノン指揮のシカゴ交響楽団の演奏であるが,フリッツ・ライナーとゲオルグ・ショルティというシカゴ響の黄金時代を築いた2人に挟まれた時代でもあったことから,名門のシカゴ響の長い歴史の中でも,マルティノンの時代というのはあまり評判が良くないのが一般的な評論である。

マルティノンがシカゴ響の音楽監督だった6年間(1963年〜68年),マルティノン自身の演奏もそれほどCD化されていないことがそれを表しているのかもしれない。

確かに晩年のフランス国立放送管弦楽団との演奏は,聴いていて安定感があり,特に得意としていたフランス物については,非常に充実している印象がある(ウィーン・フィルとのチャイコフスキーの「悲愴」も印象的である)

しかし,この曲の演奏を聴いてしまうと,シカゴ響との関係が決して悪くなく,むしろライナーやショルティ同様に,このスーパー・オーケストラをドライヴしている印象を持った。

まず,メロディの歌わせ方については目を見張るものがあり,シカゴ響が非常に純粋で清潔な音色を出し,肩に力を入れたエネルギッシュな演奏ではなく,むしろフランス風のおしゃれで少し気取った感じを受ける。

さらには,低音から高音まできっちりと統率されており,その強弱やアクセントも心地よく,聞き手を飽きさせない。

特筆すべきは,メヌエットで,副旋律を奏でるサックスのバランスが非常に良く,その音色,歌わせ方は申し分ない出来で,このレヴェルの演奏はハインツ・レーグナー指揮,ベルリン放送交響楽団の美演に匹敵する演奏である。

そして,「ファランドール」は,それまでの気品のあるおしゃれな演奏が一転し,最後の締めに持っていく力量はただ者ではなく,スーパー・オーケストラのシカゴ響の魅力を十分に活かした演奏となっており,特に終結部のアッチェレランド(徐々に早く)の激しさは,スタジオ録音とは思えないほどの力の入れ様で,非常に主体的な演奏となっている。

「ファランドール」の終結部の激しい演奏は多々あるが(カラヤン,バティス,ロジンスキー指揮など),ここまでの演奏は聴いたことがなく,また凄まじいアッチェレランドについては,ヤンソンス指揮を凌駕しクリュイタンス(日本ライヴ)と双璧と言えよう。

しかし,このようなとてつもない演奏であるが,残念な部分がある。

それは録音状態であり,ピアノの部分はマイクにきっちり入っているのであるが,「ファランドール」の終結部などの全合奏でフォルテとなると,金管がマイクに入りきっておらず,怒濤の演奏がかなり聴きづらい録音となっている。

 当時のアメリカの技術を鑑みると,もう少し良い録音を期待したいところで,元々も音源の問題であると考えられることから,今後リマスターし再発売されたとしても,この割れている音はどうにもならないと思われ,返す返すも残念である。