グリーグ作曲
ピアノ協奏曲イ短調作品16
ピアノ:スヴャトスラフ・リヒテル
指揮:ロヴロ・フォン・マタチッチ
演奏:モンテカルロ国立歌劇場管弦楽団
1974年11月 スタジオ録音
ピアノ協奏曲ではチャイコフスキー,ベートーヴェンなどと並んで有名なのが,グリーグのそれである。
私が最初にこの曲を聴いたのは中学生の頃で,学校の音楽の授業で取り上げられたのがきっかけであった。
衝撃的でインパクトのある序奏,懐かしさを感じる第1楽章の第1主題,心和む同第2主題と,気に入ってよく聴いたものである。
併せて,スケールの大きい曲であるといった印象があったのであるが,実はそれは間違いであったことに気づいたのはその後かなり時間が経過していた。
何が言いたいのかというと,中学以来の愛聴盤がリヒテルとマタチッチのカップリングのこの演奏であったのだが,曲が大きいスケールなのではなく,演奏のスケールが大きかったということである。
そもそも,この曲に対する演奏家や聴き手としての入り方というのは様々であると思われる。
例えば,調性がシューマンのピアノ協奏曲と同じという関連は当然であるが(よって,この2曲をカップリングとするCDがかなりある),曲自体の純粋さ,また大衆性への理解なども挙げられる。
この曲自体,この時代の協奏曲としてはコンパクトに見られがちであるが,リヒテルはこの曲を壮大な協奏曲として位置づけていると思われる。
よって,このような演奏となったのではなかろうか。
リヒテルらしいスケールの大きい演奏が随所で展開され,さらに非常に豊かな表情に加え,尋常ではない気迫も感じられ,この曲の新たな魅力を紹介している。
そのような多彩な表現をしているソリストを支えている指揮者のマタチッチも素晴らしい。
曲に大きなスケールを与えるといった意味合いでは,指揮者とピアニストという立場は違うもののマタチッチも負けていなく,マタチッチの数々の名演がそれを証明しているわけであるが,この演奏もしかりでリヒテルというソリストを迎えてさらに巨大かつ強靱な演奏を披露している。
このような極めて男性的な演奏ながら,曲の優しさを失わないものとなっているのが素晴らしい。
なお,このCDのカップリング曲であるシューマンのピアノ協奏曲は,グリーグほどの超名演ではないものの,十分に聴く価値のある名演となっているのでご試聴あれ。