2007年11月4日放送 ☆☆

 

マーラー作曲

 交響曲第5番嬰ハ短調より第5楽章

  指揮:エリアフ・インバル

  演奏:東京都交響楽団

  1995年4月 ライヴ録音

 

 私,何を隠そう,その昔はマーラーの交響曲は苦手であった

マーラーの音楽づくりの巨大さもあったが,それ以上にマーラーの交響曲の長いことが要因であった。

従って,ブルックナーなども苦手であり,交響曲のみならずオペラも同様で,理由が前述のとおりである。

そもそも,長い曲を聴くにはそれ相応の集中力が必要であるが,中学や高校のときはそこまでの集中力が私にはなく,これは音楽に限った話ではなく,遊び以外のもの全てに共通するものであった(当然,勉強に対しての集中力が一番ないのは言うまでもない)

よって,マーラーやブルックナーをまともに聴き始めたのは社会人になってからであり,ようやく1時間以上の曲を聴きこなすことができるようになったのである。

マーラーの交響曲,中でも最初に聴き始めたのが第1番であり,その後この第5番も聴くようになり,いずれも独唱付きではないシンプルさと,曲の短さが気に入ったのである。

現在では,双方とも20種類以上のCDも持ち合わせており,やっと演奏比較のできるレヴェルとなった。

さて,このCDは,東京都交響楽団(都響)の創立40周年記念に発売されたものである。

中でも,このインバルによるマーラーの交響曲第5番については,演奏や録音の質について最高のものといって良いだろう。

インバルは,マーラーを得意としている指揮者の1人であり,マーラーの交響曲全集を手兵であったフランクフルト放送交響楽団とスタジオ録音で残している。

また,日本でもマーラーの交響曲を多く演奏しており,それぞれが名演誉れ高い。

ただ,前者のフランクフルト放送響との録音はスタジオ録音であり,ライヴと比較して緊張感が欠け,迫力も今ひとつの印象であった。

特にインバルは,ライヴとスタジオ録音との差が大きい指揮者であり,特にマーラーはその傾向が大きい。

もちろん,スタジオ録音であるから演奏がつまらないとは言えなく,同じくマーラーの交響曲第2番「復活」やブルックナーの交響曲第0番などは,スタジオ録音ながら名盤と言えよう。

インバルと都響のマーラーの交響曲第5番は,非常に明晰な演奏と言え,スタジオ録音にはないスリリングな演奏となっている。

特に弦楽器の高い解像度の演奏は他にはなかなかなく,得意のマーラーの交響曲を自分のものとしている。

さらに,金管楽器についても,フレーズごとの表情が素晴らしく,都響は欧米のメジャーなオーケストラに負けない演奏を披露している。

特に終楽章である第5楽章は,金管の迫力といい,一気呵成に進行するコーダも素晴らしい。

もともと,インバルは,日本のオーケストラを低く評価しており,マーラーについては日本のオーケストラでは演奏しないとの話もあったほど。

しかし,結局は都響で演奏することとなり,インバルの力もあってかこのCDのように素晴らしい演奏を聴かせてくれている。

本家のフランクフルト放送響とのスタジオ録音をも上回る演奏であり,日本のオーケストラの面目躍如といったところか。

さらに都響は,インバルの客演後にガリー・ベルティーニを桂冠指揮者に招へいし,さらなるマーラー・オーケストラとして進化を果たした。

文字通り,都響は東京都のお抱えオーケストラであり(運営は財団法人),豊富な資金力に乗じてさらなる発展が期待でき,今後の活動やレコーディングに注目していきたい。

 

最後に,インバルのお勧めCDを記しておきたい(あくまで私見であるが)

 

シューマン

 交響曲第1番「春」 ニュー・フィルハーモニア管弦楽団(1970年)

 交響曲第3番「ライン」 ニュー・フィルハーモニア管弦楽団(1970年)

ブルックナー

 交響曲第0番 フランクフルト放送交響楽団(1990年)

 交響曲第1番 フランクフルト放送交響楽団(1987年)

 交響曲第3番「ワーグナー」 フランクフルト放送交響楽団(1982年)

マーラー

 交響曲第2番「復活」 フランクフルト放送交響楽団(1985年)

ショスタコーヴィチ

 交響曲第2番「十月革命に捧げる」 ウィーン交響楽団(1992年)