マーラー作曲
交響曲第5番嬰ハ短調
指揮:ジョルジュ・プレートル
演奏:ウィーン交響楽団
1991年5月19日 ライヴ録音
<推薦評>
近年,大活躍しており,評価がうなぎのぼりの指揮者がいる。
2008年,2010年と立て続けにウィーン・フィルのニュー・イヤー・コンサートを指揮して一躍脚光を浴びた指揮者,フランスのジョルジュ・プレートルである。
WEITBLICK社(CD制作会社)から,多くの名演の発売が相次ぎ,クラシックファンとしてはこの上ない喜びであり,この巨匠の芸術性が再認識されてきているのは非常に喜ばしいことである。
もともと,フランス音楽の録音が多かったプレートルであったためか,フランス音楽のスペシャリストとしての評価が大勢を占めていたのだが,近年,発売されているCDを聴くと,この評価が間違っていることがわかる。
もちろん,フランス物は素晴らしく出来の良い演奏が多いのであるが,ベートーヴェンやブルックナーなどのドイツ音楽や,話題となったニュー・イヤー・コンサート,ムソルグスキーの「展覧会の絵」やマーラーの交響曲など,特にライヴとなると異常なほどの熱気を帯び,自在にオーケストラをドライヴする様は,聴き手を虜にしてしまうほどである。
その中でも,それらの特徴が大きく出ているのが,マーラーの交響曲第5番である。
第1楽章は冒頭からトランペットが響くのであるが,テンポが速く始まるものの,その後にはリタルダント(少しずつテンポを遅くしていく)を持ってきて,弦楽器の旋律はすっかり落ち着いて歌わせている。
さらに曲が進むにつれて,低弦のアタックとティンパニの存在感が素晴らしく,テンポの変化も自在で,ウィーン響もこれにくらいついており,非常に緊張感のある関係を築いている。
第2楽章は,主部と第2主題の対比が面白い。
数々の変化も緊張感がある以上に,心地良ささえ感じるほどである。
第3楽章も前の2楽章同様に,テンポの揺れは相変わらずで,ニュー・イヤー・コンサートでも聴かせた,1つのフレーズ内での細かい技が輝いている。
第4楽章のアダージェットの美しさと雄弁さは,プレートルのオペラ指揮者としての能力が最大限活きた名演である。
第5楽章は最後のエネルギーを爆発すべく,冒頭から飛ばしに飛ばす。
ライヴとしては危険なテンポであるが,ウィーン響も緊張感こそ感じるものの,豪快な演奏を聴かせてくれている。
クライマックスのコラールからは,プレートルの独壇場で演奏は大団円で終了するのだが,全曲を通じて聴き応えは十分で,この曲のベスト盤といってもよいだろう。
マーラーの名演については下に記しているが,小林研一郎は「浪花節風燃焼系」,バーンスタイン,テンシュテット,ゲルギエフは「粘着質燃焼系」,クーベリックのライヴは「質実剛健系」,シェルヘンは「ゲテモノ系」に属しているが(かなり強引な分類であるが),プレートルのこの演奏はそれらを凌駕し別格の演奏で,風格や薫り豊かさを感じさせつつ爆発力・瞬発力を持った,これまで聴いたこの曲の中では,CDとしては一番に挙げられる(実演のゲルギエフも素晴らしかった)。
また,特筆すべきは,ウィーン響の実力で,このような実力を発揮しているこのオーケストラの演奏は,一連のプレートル指揮の他にあまり聴くことができなく,プレートルとの相性が抜群であることがわかる。
最後に,前記にあるマーラーの交響曲第5番の推薦盤を録音年代順に,さらにプレートルが指揮をしている,お薦めのCDを列記しておく(あくまでも私見であるが)。
マーラー作曲 交響曲第5番の推薦CD
ヘルマン・シャルヘン指揮 フランス国立管弦楽団(1965年)
ラファエル・クーベリック指揮 バイエルン放送交響楽団(1981年)
クラウス・テンシュテット指揮 ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団(1984年)
レナード・バーンスタイン指揮 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団(1987年)
クラウス・テンシュテット指揮 ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団(1988年)
小林研一郎指揮 チェコ・フィルハーモニー管弦楽団(1999年)
ヴァレリー・ゲルギエフ指揮 ロンドン交響楽団(2010年)
プレートルのお薦めCD
ベートーヴェン
交響曲第9番「合唱付き」 ウィーン交響楽団(2006年)
ブルックナー
交響曲第7番 ベルリン・ドイツ交響楽団(2006年)
交響曲第8番 ウィーン交響楽団(2008年)
サン=サーンス
交響曲第3番「オルガン付き」 ウィーン交響楽団 オルガン:マリ=クレール・アラン(1990年)
組曲「動物の謝肉祭」 パリ音楽院管弦楽団(1965年)
J・シュトラウスなど
2008年ニュー・イヤー・コンサート ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団(2008)
2010年ニュー・イヤー・コンサート ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団(2010)
ムソルグスキー
組曲「展覧会の絵」 ベルリン・ドイツ交響楽団(2008年)
マーラー
交響曲第6番「悲劇的」 ウィーン交響楽団(1991年)
ガーシュウィン
ラプソディ・イン・ブルー パリ音楽院管弦楽団 ピアノ:ダニエル・ワイエンベルク(1960年)