2007年5月6日放送 ☆☆☆

 

ショスタコーヴィチ作曲

 交響曲第5番ニ短調作品47より第4楽章

  指揮:ムスティスラフ・ロストロポーヴィチ

  演奏:ロンドン交響楽団

2004年7月 ライヴ録音

 

<推薦評>

「巨星・ムスティスラフ・ロストロポーヴィチ」が亡くなった。

現役のチェリストとしては,もちろん世界最高峰であることは,自他ともに認める芸術家である。

そして,後年はチェロのみならず,指揮者としても活動をしており,チェロの曲も含め数々の名演をこの世に残してくれた。

残念ながら私は,最後までロストロポーヴィチの演奏(チェロ・指揮とも)を聴くことができなかった。

チェリストとしてのロストロポーヴィチについては,別の機会に触れたいと思っているが,指揮者としてのロストロポーヴィチも大変優れていた。

特に,パリ管弦楽団とのリムスキー=コルサコフの「シェエラザード」は,私にとってゲルギエフ指揮のものと合わせて同曲のベスト盤といっても良い演奏である。

さらに,ショスタコーヴィチの交響曲の出来は非常に良く,特に第14番は私も大好きな演奏であった。

さて,同日の放送で,ロストロポーヴィチによるショスタコーヴィチの交響曲第5番の新盤をかけた。

ロストロポーヴィチの演奏としては,1982年のナショナル交響楽団と録音したスタジオ録音が有名である。

非常に個性的な演奏で,独自のこだわりを持った立派な演奏であった。

今回のロンドン交響楽団による新しいライヴ録音も,基本的な演奏のコンセプトは旧録音と変わっていない。

しかし,20年以上の歳月が経っていることから,当然細かいところの表現などは違ってきており,第4楽章だけは,ナショナル響と比較し各フレーズの歌い方はより丁寧になっており,1分以上演奏時間が長くなっている。

その中でも印象的な場面として2つ挙げられる。

1つは,「強制された喜び」を表現したフレーズで,ロストロポーヴィチはナショナル響との演奏ではヴィブラートをしなかったのに対し,新録音ではヴィブラートでゆったりと聴かせ,極端なピアニッシモを維持するところ。

2つ目は,中間部前のダブルでティンパニを叩くフレーズのところで,前回にも増してゆったりとしたリタルダント(徐々に遅く)をかけていくところ。

この2カ所を聴くだけでも,非常に価値のあるものであるが,第4楽章はもとより,全楽章を通じて非常に緊張感のある演奏となっており,ライヴならではのスリリングな曲の展開を見せる。

バーンスタインの新旧盤やムラヴィンスキーのライヴ盤,さらにはザンデルリンクなどの演奏と並んで,間違いなく後世に残すべき演奏記録であると思う。