ショパン作曲
24の前奏曲作品28
ピアノ:イーヴォ・ポゴレリチ
1989年10月 スタジオ録音
<推薦評>
24の前奏曲は,1839年1月にマジョルカ島で完成した曲で,その名が示すとおり,24曲からなり,その全ての曲が異なる調性で書かれている。
これは,バッハの平均律クラヴィーア曲集に,ショパンが敬意を表したものといわれているのは有名な話である。
しかし,同曲とは曲の配列は異なっており,ハ長調−イ短調−ト長調−ホ短調・・・と平行短調を間に挟みながら5度ずつ上がっていくという順序になっている。
これは,ラフマニノフやスクリャービン,ショスタコーヴィチの前奏曲集にも見ることができる。
24の前奏曲は,アンコールピースとして個別に演奏されることもあるが,現在ではむしろ24曲全体で1つの作品と考えられることが多く,全曲通して演奏されることも多くなってきた。
曲の構成も単調さを感じさせない内容となっている。
さて,この演奏を語る前に,演奏者のポゴレリチの逸話を紹介しなければならないであろう。
ピアニストであるポゴレリチの有名な逸話として,1980年のショパン・コンクールでの出来事がある。
このコンクールでのポゴレリチの演奏は,前代未聞の大胆な解釈で物議を醸し,衝撃的なデビューを飾ったのであるが,ここで問題が生じた。
予選でポゴレリチは落選をしてしまうのであるが,この落選に当時審査員のひとりであったピアニストのマルタ・アルゲリッチが,ポゴレリチの落選に対して「彼は天才よ!」と猛抗議し,何と審査員を降り会場を去ってしまったのである。
その結果,皮肉なことに,この事件がポゴレリチの名を世界中に知らしめることとなったのである。
さて,演奏の内容であるが,個性的な名演と言えよう。
これはとてつもない超名演で,ショパンの前奏曲には,本盤の前には,オーソドックスなルービンシュタインの名演や,フランス風のエスプリを織り交ぜた個性的なフランソワの演奏など,名曲であることからも非常に名演が多く,これらの中でも燦然と輝きを示す演奏がポゴレリチの演奏である。
このポゴレリチ盤は,何とも個性的な解釈を示しており,そのテクニックにも驚愕するが,テクニシャンが陥る無機質的な演奏ではなく,そこに力強さや血が通う演奏となっているのである。
さらには,1つの曲の中での緩急ではなく,各曲毎に極端な緩急を表現しており,24曲全体を通じて表現をしている。
特に,有名な第15番から17番までは圧巻として言いようがなく,自由奔放な解釈はモーツァルトを弾くファジル・サイをも感じさせるが,そこに計画性を感じさせないところがポゴレリチの魅力であろう。
指揮者の脱個性派が進む中で,サイもそうであるが,このようなピアニストが活躍するのはうれしい限りである。
いずれにしても,ポゴレリチが示したこのショパンの前奏曲集であるが,この演奏を超える新しい演奏を期待したいが,かなりの難題と言えるのではないか。
せっかくなので,24の前奏曲の推薦盤を録音年代順に,さらにポゴレリチが演奏している,お薦めのCDを列記しておく(あくまでも私見であるが)。
ただ,基本的には,ポゴレリチの演奏は,私にとってそのほとんどがお勧めCDであるが,中でも「これは特に!」というものを取り上げた(いずれもその演奏は個性的である)。
24の前奏曲の推薦CD
アルフレッド・コルトー(1926年)
サンソン・フランソワ(1959年)
アルトゥール・ルービンシュタイン(1970年)
マルタ・アルゲリッチ(1975年)
スタニスラフ・ブーニン(1990年)
ポゴレリチのお薦めCD
スカルラッティ
ソナタ集
ハイドン
ピアノ・ソナタ第19番
ピアノ・ソナタ第46番
ショパン
ピアノ協奏曲第2番 クラウディオ・アバド指揮 シカゴ交響楽団
チャイコフスキー
ピアノ協奏曲第1番 クラウディオ・アバド指揮 ロンドン交響楽団