「ペール・ギュント」第1組曲作品46,第2組曲作品55
【特選】 指揮:ヴァーツラフ・スメターチェク 演奏:プラハ交響楽団 録音:1976年 【推薦①】 指揮:ネーメ・ヤルヴィ 演奏:エーテボリ交響楽団 録音:1987年・1992年 【推薦②】 指揮:アリ・ラシライネン 演奏:ノルウェー放送交響楽団 録音:1995年
【解説】 グリーグの代表作と言えば,ピアノ協奏曲と劇付随音楽「ペール・ギュント」ということになりますが,この劇付随音楽を管弦楽のために編曲・編纂したのが2つの組曲(作品46と作品55)であります(一部は管弦楽意外にもグリーグ自身がピアノ独奏曲や歌曲にも編曲されております)。 「ペール・ギュント」は,シェークスピア以後最大の戯曲家と言われております,グリーグと同じノルウェー出身の文豪イプセンの戯曲で,この戯曲(劇)の初演のために作曲されたのがこの劇付随音楽です(初演のために作曲されることは極めて珍しい)。 グリーグの作風は,ピアノ協奏曲を除き,そのほとんどが小品であるため,イプセンから作曲の依頼をされた劇付随音楽については,当初は断ろうと思っていたようですが,結局引き受けたことがこのような名作を生んだわけです。 元々の劇付随音楽は全5幕26曲(この他に第3幕に番号無しの曲が1曲)からなるものですが,その中から抜粋・編曲したものが2つの組曲となっており,それぞれ4曲ずつの組曲となっております。 第1組曲作品46は「朝」「オーセの死」「アニトラの踊り」「山の魔王の宮殿にて」の4曲からなっております。 「朝」は第4幕の最初(全体では13曲目)の曲で,第4幕への前奏曲として使用されており,「オーセの死」は第3幕の主要曲(全体では12曲目),「アニトラの踊り」は第4幕の曲(全体では16曲目),「山の魔王の宮殿にて」は第2幕の「ドヴレ山の魔王の広間にて」(全体では8曲目で男声合唱付き)をそれぞれ使用しております。 第2組曲作品55は,「イングリッドの嘆き」「アラビアの踊り」「ペール・ギュントの帰郷」「ソルヴェイグの歌」の4曲からなっております。 「イングリッドの嘆き」は第2幕の最初(全体では4曲目)の曲で第2幕への前奏曲「花嫁の略奪とイングリッドの嘆き」を,「アラビアの踊り」は第4幕の女声二部合唱と独唱付きの曲(全体では15曲目),「ペール・ギュントの帰郷」は第5幕の最初の曲「ペール・ギュントの帰郷,海の嵐の夕方」(全体では21曲目)を,「ソルヴェイグの歌」は,第4幕の舞台裏の歌手が歌う曲(全体では19曲目)をそれぞれ使用しております。 このように,双方の組曲とも,原曲の順番には構成されていなく,組曲を聴くだけでは物語の内容は把握できないことから,単に管弦楽作品として聴く音楽となっております。 合計8曲は,それぞれ有名でありますが,その中で最も有名なのが第1組曲の「朝」,ロックやポップスなど様々なジャンルの音楽やドラマ,ゲーム音楽などに使用される機会が多いのが,同じく第1組曲の「山の魔王の宮殿にて」です。
【推薦盤】 第1組曲,第2組曲双方の音源を所有しているのは6種類しかなく,その中で推薦する演奏をセレクトするのは少々気が引けるのですが,圧倒的な演奏が1つ,雰囲気が十分に伝わる演奏が2つ,それぞれありますので紹介します。 圧倒的な演奏として,スメターチェク=プラハ響の76年の録音を特選盤といたしましょう。 この指揮者,「東欧のカラヤン」と紹介されることがありますが,私はそのような印象は持っておりません。 例えば,ドヴォルザークの交響曲第9番「新世界より」やスメタナの連作交響詩「わが祖国」などでは,自国のチェコの音楽を民族性溢れる演奏で構築しているとともに,大きなテンポの揺れを多用するなど,カラヤンとの芸風が違いすぎます。 しかしながら,この演奏に関しては,あのカラヤンも真っ青のゴージャズに盛り上げる手法を採用し,演奏家を隠して聴かせると,カラヤンの演奏と感じるほど似ている部分も少なくありません。 第1組曲では,「朝」の情景が浮かぶような表現力,「山の魔王の宮殿にて」における重量感や迫力溢れる演奏,第2組曲の「ソルヴェイグの歌」での叙情性など,どれをとっても素晴らしいものです。 現在では,スメターチェクのCDはあまり発売されていないのですが,上記のドヴォルザークやスメタナは勿論のこと,私が所有している演奏では,チャイコフスキーの交響曲第1番「冬の日の幻想」,メンデルスゾーンの劇付随音楽「真夏の夜の夢」抜粋,ボロディンの交響曲第2番,シューマンの交響曲第3番「ライン」,ビゼーの「アルルの女」組曲,協奏曲ではグラズノフとヴィエニャフスキのヴァイオリン協奏曲(独奏:ヘンデル),ベートーヴェンのピアノ協奏曲第5番2種類(独奏:パネンカ,ミケランジェリ)など,名盤・名演奏が多く,録音もかなり残しているとの話も聞くので,今後,音源が発掘されCD化されることを強く望みたいと思います。 推薦盤としては,全曲盤の録音も行っているヤルヴィ=エーテボリ響の87年と92年の録音をお薦めしましょう。 この演奏の指揮者のヤルヴィは,現在大活躍しているパーヴォ・ヤルヴィの父親のネーメ・ヤルヴィで,ちなみに息子のパーヴォも全曲盤の録音もありますが所有しておらず未聴です。 さて,ヤルヴィの演奏ですが,シベリウスの交響曲や管弦楽作品でもそうですが,北欧の音楽を非常に上手く表現する指揮者で,雰囲気が目に浮かぶような演奏をこの曲でも披露しております。 特に,「オーセの死」の悲劇性や全曲通じての重量感は素晴らしいです。 次に,ラシライネン=ノルウェー放送響の95年の録音ですが,正にノルウェーの作曲家の曲をノルウェー人の指揮者がノルウェーのオーケストラを振ってという,特別な1枚となっております。 一言で言うと,非常に締まった演奏で,叙情性を全面に出しながら,聴き手に音楽を押しつけない自然な音楽を奏でております。 なお,全曲盤としてはブロムシュテット=サンフランシスコ響の超名盤が存在しており,こちらもお薦めしたい逸品です。
第1組曲,第2組曲双方の音源を所有しているのは6種類しかなく,その中で推薦する演奏をセレクトするのは少々気が引けるのですが,圧倒的な演奏が1つ,雰囲気が十分に伝わる演奏が2つ,それぞれありますので紹介します。 圧倒的な演奏として,スメターチェク=プラハ響の76年の録音を特選盤といたしましょう。 この指揮者,「東欧のカラヤン」と紹介されることがありますが,私はそのような印象は持っておりません。 例えば,ドヴォルザークの交響曲第9番「新世界より」やスメタナの連作交響詩「わが祖国」などでは,自国のチェコの音楽を民族性溢れる演奏で構築しているとともに,大きなテンポの揺れを多用するなど,カラヤンとの芸風が違いすぎます。 しかしながら,この演奏に関しては,あのカラヤンも真っ青のゴージャズに盛り上げる手法を採用し,演奏家を隠して聴かせると,カラヤンの演奏と感じるほど似ている部分も少なくありません。 第1組曲では,「朝」の情景が浮かぶような表現力,「山の魔王の宮殿にて」における重量感や迫力溢れる演奏,第2組曲の「ソルヴェイグの歌」での叙情性など,どれをとっても素晴らしいものです。 現在では,スメターチェクのCDはあまり発売されていないのですが,上記のドヴォルザークやスメタナは勿論のこと,私が所有している演奏では,チャイコフスキーの交響曲第1番「冬の日の幻想」,メンデルスゾーンの劇付随音楽「真夏の夜の夢」抜粋,ボロディンの交響曲第2番,シューマンの交響曲第3番「ライン」,ビゼーの「アルルの女」組曲,協奏曲ではグラズノフとヴィエニャフスキのヴァイオリン協奏曲(独奏:ヘンデル),ベートーヴェンのピアノ協奏曲第5番2種類(独奏:パネンカ,ミケランジェリ)など,名盤・名演奏が多く,録音もかなり残しているとの話も聞くので,今後,音源が発掘されCD化されることを強く望みたいと思います。 推薦盤としては,全曲盤の録音も行っているヤルヴィ=エーテボリ響の87年と92年の録音をお薦めしましょう。 この演奏の指揮者のヤルヴィは,現在大活躍しているパーヴォ・ヤルヴィの父親のネーメ・ヤルヴィで,ちなみに息子のパーヴォも全曲盤の録音もありますが所有しておらず未聴です。 さて,ヤルヴィの演奏ですが,シベリウスの交響曲や管弦楽作品でもそうですが,北欧の音楽を非常に上手く表現する指揮者で,雰囲気が目に浮かぶような演奏をこの曲でも披露しております。 特に,「オーセの死」の悲劇性や全曲通じての重量感は素晴らしいです。 次に,ラシライネン=ノルウェー放送響の95年の録音ですが,正にノルウェーの作曲家の曲をノルウェー人の指揮者がノルウェーのオーケストラを振ってという,特別な1枚となっております。 一言で言うと,非常に締まった演奏で,叙情性を全面に出しながら,聴き手に音楽を押しつけない自然な音楽を奏でております。 なお,全曲盤としてはブロムシュテット=サンフランシスコ響の超名盤が存在しており,こちらもお薦めしたい逸品です。