クラシックにくびったけ  
     

C・サン=サーンス
 

組曲「動物の謝肉祭」

【特選】
  ピアノ:マルタ・アルゲリッチ,ネルソン・フレイレ
  ヴァイオリン:ギドン・クレーメル,イザベル・ヴァン・クーレン
  ヴィオラ:タベア・ツィンマーマン
  チェロ:ミッシャ・マイスキー
  コントラバス:ゲオルグ・ヘルトナーゲル
  フルート:イレーナ・グラフェナウアー
  クラリネット:エドゥアルト・ブルンナー
  シロフォン:マルクス・ステッケラー
  グロッケンシュピール:エディト・サルメン=ヴェーバー
  録音:1985年

【推薦①】
  ナレーション:レナード・バーンスタイン
  ピアノ:ルース・シーガル,ナオミ・シーガル
  コントラバス:ゲーリー・カー
  フルート:ポーラ・ロビソン
  クラリネット:ポール・グリーン
  シロフォン:トニー・シロニー
  指揮:レナード・バーンスタイン
  演奏:ニューヨーク・フィルハーモニック
  録音:1960年

【推薦②】
  ピアノ:アルド・チッコリーニ,アレクシス・ワイセンベルク
  チェロ:ロベール・コルディエ
  フルート:ミシェル・デボスト
  指揮:ジョルジュ・プレートル
  演奏:パリ音楽院管弦楽団
  録音:1965年

【推薦③】
  ナレーション:小澤征爾
  ピアノ:ジョン・ブラウニング,ギャリック・オールソン
  指揮:小澤征爾
  演奏:ボストン交響楽団
  録音:1992年

   

【解説】
 この曲は全部で14曲からなる組曲で,元々は室内楽編成用として作曲されたものです。
 曲の内容は,他の作曲家の楽曲をパロディにして,強烈な風刺的にそれを用いていることや,プライヴェートな演奏目的で書かれていることから,サン=サーンスは自身が死去するまでこの曲の演奏及び出版を禁止しました。
 しかしながら一番有名な「白鳥」だけは生前に出版しております。
 現在では,プロコフィエフの「ピーターと狼」や,ブリテンの「青少年のための管弦楽入門」と並ぶ,子供向け管弦楽曲の代表作品として人気を博しており,これらの曲とのカップリングも多く見られます。
 14曲を順に挙げると,「序奏と獅子王の行進曲」「雌鳥と雄鳥」「騾馬(らば)」「亀」「象」「カンガルー」「水族館」「耳の長い登場人物」「森の奥のカッコウ」「大きな鳥籠」「ピアニスト」「化石」「白鳥」「終曲」となっております。
 このうち,第4曲の「亀」では,オッフェンバックの「天国と地獄」の旋律をわざとゆっくり奏しているほか,第5曲の「象」ではベルリオーズの「ファウストの劫罰」の「妖精のワルツ」やメンデルスゾーンの「真夏の夜の夢」のスケルツォが重低音で組み入れられ,第8曲の「耳の長い登場人物」ではサン=サーンスの評価が低かった評論家への皮肉,第11曲の「ピアニスト」ではわざとへたくそにピアノ練習曲を弾き,第12曲の「化石」ではロッシーニの「セビリアの理髪師」の旋律やフランス民謡が使用されております。
 なお,現代において,この曲の演奏や録音に当たっては,ナレーションによる説明なども付される場合があります。

【推薦盤】
 この曲の演奏は,解説にもあるとおり,いかに各曲の特徴をわかりやすく演奏するか,また,多少デフォルメしてでもパロディを楽しく,えげつなく演奏できるかが鍵となります。
 そのような中,解説にもありますとおり,室内楽的な演奏で素晴らしい音源があり,アルゲリッチを始めとするオールスターキャストのソリストでの85年の録音を特選盤としたいと思います。
 このソリスト群は世界トップクラスを集めており,ピアノのアルゲリッチとフレイレは現代を代表するピアニストでありますし,ヴァイオリンのクレーメルも現代を代表するヴァイオリニストでありますとともに,クーレンもオランダを代表する女流ヴァイオリニストです。
 さらにヴィオラのツィンマーマンはドイツを代表する女流ヴィオラ奏者ですし,チェロのマイスキーは現代最高のチェリストとの呼び声が高く,コントラバスのヘルトナーゲルはあのリヒテルとボロディン四重奏団とのシューベルトのピアノ五重奏曲「ます」を録音した演奏家です。
 フルートのグラフェナウアーはスロベニア出身の女流フルート奏者でソロやオーケストラで活躍しており,クラリネットのブルンナーはスイス生まれのクラリネット奏者でバイエルン放送交響楽団の首席奏者もつとめております。
 また,あまり聴き慣れないシロフォンとは,別名ザイロフォンと言い,木製の鍵盤打楽器であり,曲中では第12曲の「化石」で使用されるほか,他の曲で有名なのはハチャトゥリアンのバレエ「ガイーヌ」の「剣の舞」やカバレフスキーの組曲「道化師」のギャロップで活躍する楽器と言えばわかる方も多いでしょう。
 さらに,グロッケンシュピールとは,金属製の鍵盤打楽器で,いわゆる鉄琴の一種で,この演奏では第7曲の「水族館」で,本来のグラスハーモニカを使用する場面で,このグロッケンシュピールを代用しております。
 さて,演奏内容ですが,これだけのキャスティングを実現したこと自体が奇跡でありますが,その演奏もそれぞれの個性が活かされ,時にぶつかり合い,非常に躍動的な演奏を繰り広げております。
 これだけワクワクして聴くことのできるクラシック音楽も珍しいでしょう。

 さらに,演奏に負けないくらい素晴らしいのが録音で,非常に情報量の多いものとなっております。
 次に,バーンスタイン=ニューヨーク・フィルの60年の録音をお薦めしましょう。
 演奏内容は,ニューヨーク・フィル時代のバーンスタイン節が全開のパッションが爆発しているとともに,各ソリストは当時の気鋭の若手奏者がつとめており,特に第13曲の「白鳥」は,通常チェロのソロとなりますが,この演奏ではコントラバスを代用し,しかもそのソロを20世紀最高のコントラバス奏者と言われている,当時21歳のゲーリー・カーが務めていることも特筆すべきことでしょう。
 なお,ナレーションはバーンスタイン自身が務めており,非常に愛情深い語り口にも好感が持てます。

  オーケストラヴァージョンのこの曲の中では,私個人は最高の演奏であると思っているのが,プレートル=パリ音楽院管の65年の録音です。
 フランスもののスペシャリストでもあるプレートルの若かりし日の録音ですが,非常に個性的であるとともに正にフランス風のエスプリに満ちた演奏となっており,粋で洒落た演奏を聴かせてくれております。
 ソリストも申し分なく,ピアノは当時の印象派やフランスものを弾かせたらトップクラスと言われていたチッコリーニとワイセンベルクを採用し,その他のソロはパリ音楽院管首席のスペシャリスト達が務めていることも,この演奏の良さを引き出しております。

 最後に,万人向け,特に子供向けの演奏としては最高の,小澤征爾=ボストン響の92年の録音をお薦めしましょう。
 演奏は特別素晴らしいとは正直思わないのですが,小澤征爾のナレーションが非常にわかりやすく,子供向けの教材としては最高のものとなっております(台本・構成は小澤幹雄)。
 しかも,解説にもあるとおり,子供向けの黄金のカップリングであります,プロコフィエフの「ピーターと狼」とブリテンの「青少年のための管弦楽入門」で,いずれもナレーション付きです。
 子供,初心者にクラシック音楽を理解してもらうのは最適の録音ということで推薦盤とします。