クラシックにくびったけ  
     

G・ビゼー

 
「アルルの女」第1組曲・第2組曲

【特選】
  指揮:ハインツ・レーグナー
   演奏:ベルリン放送交響楽団
   録音:1974年

【推薦①】
   指揮:アンドレ・クリュイタンス
   演奏:パリ音楽院管弦楽団
   録音:1964年

【推薦②】
   指揮:シャルル・デュトワ
   演奏:モントリオール交響楽団
   録音:1986年

【推薦③】
   指揮:エルネスト・アンセルメ
   演奏:スイス・ロマンド管弦楽団
   録音:1958年

【推薦④】
   指揮:ヘルベルト・フォン・カラヤン
   演奏:ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
   録音:1970年

【推薦⑤】
   指揮:マルク・ミンコフスキ
   演奏:ルーヴル宮音楽隊
   録音:2007年

【推薦⑥】
   指揮:ジャン・マルティノン
   演奏:シカゴ交響楽団
   録音:1967年

【と盤】
   指揮:アルトゥール・ロジンスキー
  演奏:ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団
   録音:1954年



【解説】
この曲は,ドーデの戯曲に基づき,その上演のためにビゼーが27曲の劇付随音楽として作曲し,ここから編まれた2つの組曲となっております。
そのポピュラーな曲であることから,私も昔から好んで聴いてきました。
第1組曲は作曲者自身が編成・編曲を行っており,第1曲の「前奏曲」は劇音楽の序曲から,第2曲の「メヌエット」は劇音楽17番の 間奏曲から,第3曲の「アダージェット」は劇音楽19番の中間部から,第4曲「カリヨン」は劇音楽18と19番から編曲されております。
一方,第2組曲は,ビゼーの死後,友人のギローの手により編曲,完成されたもので,何故か「アルルの女」以外の楽曲も加えて編曲しています(編曲の内容は4曲とも素晴らしい内容です)。
第1曲の「パストラール」劇音楽7番の導入曲と合唱から,第2曲の「間奏曲」は劇音楽15から,第3曲の「メヌエット」は,ビゼーの歌劇『美しきパースの娘』の曲をギローが転用・編曲,第4曲の「ファランドール」は劇音楽21から編曲しております。
この2つの組曲の内容を考えると,ビゼー自ら編曲した第1組曲よりも,ギローが編曲した第2組曲の方が出来は良く,皮肉なものです。
特に,この曲の演奏で,出来を左右する要素としては,第2組曲の「メヌエット」と「ファランドール」が大きく影響しますし,その辺を中心に推薦盤を挙げてみます。

【推薦盤】
特選盤は,ずばり,レーグナー=ベルリン放送響(74年録音)の美演です。
多分,一般的にはクリュイタンス=パリ音楽院管を挙げると思いますが,それをさらに上回るのがレーグナー盤です。
全体としてのまとまりは,クリュイタンスに譲りますが,本当に曲の仕上げ方が美しいのです。
特に第2組曲は秀逸で,「メヌエット」の素晴らしさは他を大きく引き離しております。
メヌエットのフルートやハープも素晴らしいのですが,それよりもアルト・サックスが素晴らしく,主旋律のフルートとの掛け合いのバランスが絶妙です。
もちろん,メヌエット以外も素晴らしく,どの曲を取っても上品な出来となっております。
「ファランドール」については,落ち着いた中で進行していく手法をとり,他の曲とのバランスを取っております。

その他の推薦盤としては,前記のクリュイタンス=パリ音楽院管(64年録音)を挙げないわけにはいきません。
まぁ,この曲と言えばクリュイタンスということになるわけですが,その上品さは絶品です。
全体のバランスではレーグナー盤をも上回る定番であり,解説の必要はないほどの演奏と言って良いでしょう。

もう1つの定番と言えば,デュトワ=モントリオール響(86年録音)です。
このコンビは,録音の良さも手伝ってか,非常にクリアな音楽を作り出しますが,フランス音楽にはピッタリの印象であります。
どの曲も慌てず,バランスを常に保った演奏となっております。
クリュイタンス同様,安心して聴くことにできる模範的な演奏です。

フランス物で言えば,安定感のある演奏をもう1つ。
アンセルメ=スイス・ロマンド管の黄金コンビを取り上げたいと思います。
このコンビの良さは,誰しもがご存じのとおりですが,特にフランス物やロシア物(ストラヴィンスキーは中でも良い)が素晴らしいのですが,このアルルの女は58年の録音のためか,音が細く感じてしまう部分,オケのパワーが足りないと思う部分を除いては出来が非常に良いです。
第2組曲のメヌエットもさることながら,ファランドールのコーダではアッチェレランドをかけるなど,アンセルメとは思えないほどの盛り上げ方をしてくれております。
それにしてもオケのパワーが足りないのが残念です。

カラヤン=ベルリン・フィル(70年録音)も捨てがたい演奏です。
まるでビロードの様な音楽づくりのカラヤンにはマッチするこの曲ですが,ゴージャスな「アルルの女」を聴きたければこの演奏をお奨めします。
何せ,サックスとフルートが目立つこの曲ですが,通常はオケの団員が弾くこれらの楽器も,カラヤンに至ってはサックスにドゥファイエを,フルートにゴールウェイを起用するといったゴージャスさですので,悪い演奏な訳がありません。
まぁ,こういう曲などをやらすと,カラヤンはうまいですわ。

ミンコフスキ=ルーヴル宮音楽隊(2007年録音)の演奏は,上記の4つの演奏とは一線を画しており,非常に刺激的な演奏を披露しております。
まず,組曲の内容を変えて,第1組曲,第2組曲に加え,合唱曲を伴った音楽など7曲を両組曲の間に置き,劇附随音楽の雰囲気を出しております。
これが結構はまっており,さらにはミンコフスキの音楽づくりが加わって,非常に新鮮で斬新な「アルルの女」となっております。

最後に,マルティノン=シカゴ響(67年録音)を挙げたいと思います。
「マルティノンがシカゴ響?」と思うかも知れませんが,ライナーとショルティの間の5年間だけ,シカゴ響の音楽監督をマルティノンがやっております。
共に前後が黄金時代を築いたのと比較し,マルティノン時代は残念ながら蜜月とは行かなかったのですが,その就任期間末期に録音されたのがこの録音です。
シカゴ響のパワーが全開で,ライナーに鍛えられた筋肉質のオケがよく機能しております。
ただ,この録音も難点があり,当時のアメリカの技術とはほど遠いほどの録音の悪さがあります。
特に,ファランドールなどは,その演奏が凄まじいのですけれど,音が割れており,せっかくのシカゴ響のパワーが伝わってこない印象です。
正に玉に瑕の録音ですが,それでも名盤と言える演奏で,アンセルメ同様にファランドールでのアッチェレランドは凄まじく,しかもオケが乱れていないという奇跡的な演奏です。

今回の「と盤」はロジンスキー=ロイヤル・フィル(54年録音)を挙げたいと思います
この演奏,第1組曲は偉く力が入っているのに,第2組曲になるとフニャフニャな演奏をメヌエットまで続け,最後のファランドールでは途中でエネルギーを充填していたものを爆発させるといった芸風の演奏です。
まぁまぁ,メヌエットの汚いこと汚いこと。
ロジンスキーに美しさを求めること自体,問題があるんですけれど・・・。
ファランドールでは,コーダでカットをしてみせるも,曲の勢いは止まらないところはロジンスキーらしさで,このことからも「と盤」としました。

今回は番外編として,ファランドールのみの名演を2つ挙げたいと思います。
ファランドールは,もちろん組曲としての演奏機会も少なくはないと思いますが,この曲のみをアンコール曲として使うことが多く,それが録音に残っているものもあります。

まずは,クリュイタンス=パリ音楽院管の日本ライヴの際のアンコールの録音ですが,これが凄まじい演奏です。
スタジオ録音では柔和な演奏を披露していたクリュイタンスも,ライヴのアンコールでは燃えに燃えて,凄まじいファランドールを披露しています。
録音は64年5月10日(スタジオ録音の1年後)で,この日のプログラムは,ベートーヴェン「英雄」,ベルリオーズ「幻想交響曲」で,何ともヘビーな演奏会ではありますが,いずれもクリュイタンスが得意としていた曲ということもあり,相当な盛り上がりを見せていたことは容易に想像でき,同日の幻想交響曲はCD化され,大絶賛されております。
その日のアンコールに取り上げたのがこのファランドールで,幻想交響曲の勢いをそのまま引きずって演奏した感があり,大熱演!
コーダのアッチェレランドはマルティノン=シカゴ響と並んで強烈なもので,曲の終了後には,やんややんや拍手喝采,ブラヴォーの嵐。
たった3分弱のリズムの祭典に驚愕です。

もう1つはヤンソンス=オスロ・フィルのファランドールです。
芸風はマルティノンと同様で,熱い演奏となっておりますが,マルティノンと違い新しいスタジオ録音であるため,音が非常にクリアです。
シカゴ響までのパワーはオスロ・フィルからは感じられませんが,それでも中々の力演で,例のごとくコーダでのアッチェレランドも素晴らしいです。
ちなみに,この曲が収録されているアルバムは変な企画で,世界各国のアンコールに使用される曲の演奏を集めたものとなっております。

※「と盤」とは,とんでもない演奏の録音を指すものです。