【特選盤】
シェエラザードは,その独特な雰囲気の世界をどのように表しているのか,各楽章の標題をどのように表現しているのか,という観点が,演奏内容の評価につながります。
私のお奨めは,まずソヴィエトから実質亡命初年度に録音がされた,ロストロポーヴィチ=パリ管の74年の録音から挙げたいと思います。
指揮者としてのキャリアはまだまだの時代の演奏ですが,この後に録音をし始めるショスタコーヴィチの交響曲群を感じさせる充実した内容です。
ロシア音楽をロシアの指揮者,フランスのオーケストラの演奏という組み合わせなのですが,イメージが浮かばない感じもしますが,非常にはまっている演奏を聴かせてくれており,同曲での一番の演奏のみならず,指揮者ロストロポーヴィチの代表的な録音とも言える内容であります。
【推薦盤①】
さて,ロシア音楽はロシアの指揮者で,という方にお奨めするのが,2001年録音のゲルギエフ=キーロフ歌劇場管を挙げておきます。
ゲルギエフのロシア音楽は,どれもが素晴らしい出来で,非常に色合いの濃い演奏内容で,チャイコフスキーやショスタコーヴィチ,プロコフィエフ,ストラヴィンスキーと,ロシアを代表する作曲家を積極的に録音しております。
この曲でも,ゲルギエフらしい色濃く,あまり上品にならない燃焼度が高い演奏内容となっております。
【推薦盤②】
さて,ある意味定番的な演奏とされているのが,ストコフスキー=ロンドン響との64年の録音です。
ストコフスキーと言えば,奇をてらった演奏,一言で言えばエンターテイナー的なサービス精神旺盛な演奏を芸風としておりますが,この曲の場合は,少し控えている内容となっておりますが,それでも時にストコフスキー節が炸裂する場面も見られる好演です。
【推薦盤③】
最後に,マタチッチ=フィルハーモニア管の58年ライヴをお奨めしておきましょう。
この指揮者,様々なオーケストラに客演しておりますが,チェコ・フィル以外のそのほとんどがライヴ盤で,常任指揮者としてオケに恵まれない一方,どのオケもマタチッチにかかると重厚な音楽を奏でてしまうという,非常に特異な指揮者といえ,この雰囲気に合致してしまうオーケストラとしては,日本のNHK響やザクレフ・フィルなどが挙げられますが,フィルハーモニア管との相性も非常に良く,ブルックナーの交響曲第3番では,同曲では最高の演奏内容となっております。
チャイコフスキーの後期交響曲でもわかるとおり,マタチッチとロシア物の相性の良さも感じさせる内容の演奏で,巨大な千夜一夜物語を展開しております。
【と盤】
「と盤」では,ロシアの怪人ゴロヴァーノフ(ボリジョイ管弦楽団との46年のモノラル録音)を挙げておきましょう。
ゴロヴァーノフの芸風は,原曲がどうであれ,ひたすら自分の世界にのめり込み,デフォルメの嵐を築き上げます。
フルトヴェングラーやクナッパーツブッシュとは違い即興性はないものと思われ(もし即興的な指揮だとしたらオーケストラが着いていけません,確実に),むしろポルタメント具合からもメンゲルベルクに近いスタイルと言えますが,何しろそのデフォルメ度はメンゲルベルクを遙かに凌ぐ内容です。
この指揮者のチャイコフスキーの「悲愴交響曲」や「序曲1812年」,ムソルグスキーの「展覧会の絵」,モーツァルトの「レクイエム」,そしてこの演奏を聴くと,CDでも針がふっ飛びそうなくらいの衝撃があります。
※「と盤」とは,とんでもない演奏の録音を指すものです。
|