クラシックにくびったけ  
     

C・オルフ
 

世俗的カンタータ「カルミナ・ブラーナ」

【特選】
  ソプラノ:グンドゥラ・ヤノヴィッツ
  テノール:ゲルハルト・シュトルツェ
  バリトン:ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ
  指揮:オイゲン・ヨッフム
  演奏:ベルリン・ドイツ・オペラ管弦楽団
  合唱:ベルリン・ドイツ・オペラ合唱団,シェーネベルク少年合唱団
  録音:1967年

【推薦①】
  ソプラノ:エディタ・グルベローヴァ
  テノール:ジョン・エイラー
  バリトン:トーマス・パンプトン
  指揮:小澤征爾
  演奏:ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
  合唱:晋友会合唱団,ベルリン・シュターツ・ドーム少年合唱団
  録音:1988年

【推薦②】
  ソプラノ:ジューン・アンダーソン
  テノール:フィリップ・クリーチ
  バリトン:ベルント・ヴァイクル
  指揮:ジェイムズ・レヴァイン
  演奏:シカゴ交響楽団
  合唱:シカゴ交響合唱団,グレン・エリン児童合唱団
  録音:1984年

【推薦③】
  ソプラノ:ユッタ・ヴルピウス
  テノール:ハンス・ヨアヒム・ロッチュ
  バリトン:クルト・リーム
  指揮:ヘルベルト・ケーゲル
  演奏:ライプツィヒ放送交響楽団
  合唱:ライプツィヒ放送合唱団,ライプツィヒ放送少年合唱団
  録音:1959年

【推薦④】
  ソプラノ:バーバラ・ボニー
  テノール:フランク・ロバート
  バリトン:アンソニー・マイルズ・ムーア
  指揮:アンドレ・プレヴィン
  演奏:ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
  合唱:アルノルト・シェーンベルク合唱団,ウィーン少年合唱団
  録音:1993年ライヴ

【推薦⑤】
  ソプラノ:クリスティアーネ・エルツェ
  テノール:デイヴィッド・キューブラー
  バリトン:サイモン・キーンリーサイド
  指揮:クリスティアン・ティーレマン
  演奏:ベルリン・ドイツ・オペラ管弦楽団
  合唱:ベルリン・ドイツ・オペラ合唱団
  録音:1998年   


【解説】
 この曲は,舞台形式のカンタータで,「楽器群と魔術的な場面を伴って歌われる,独唱と合唱のための世俗的歌曲」という長い名前の副題が付いております。
 オルフは,「カルミナ・ブラーナ」の後に作曲した「カトゥーリ・カルミナ」及び「アフロディーテの勝利」と合わせて,これら3部作を「トリオンフィ(勝利)」としてまとめました。
 24篇からなる詩歌を,「初春に」「酒場で」「愛の誘い」の3部に分け,プロローグとエピローグを付加しております。
 曲は,混声合唱,少年合唱,ソプラノ・テノール・バリトンの独唱に大規模なオーケストラで編成されております。
 特徴は,「酒」や「男女の睦み合い」などを歌った詩に,シンプルな和音と強烈なリズムであります。
 中でも有名なのは,「おお,運命の女神よ」の部分で,冒頭と最後に配置しております。

【推薦盤】
 クラシックの名門レーベルでありますDG(ドイツ・グラモフォン)に数あるアルバムの中で,最もセールスが多いアルバムは,カラヤンでもフルトヴェングラーでもなく,驚くことなかれ,このオルフの「カルミナ・ブラーナ」の1枚です。
 初演者のヨッフム=ベルリン・ドイツ・オペラ管(67年録音)の演奏がそれです。
 正に名盤中の名盤,名演中の名演,無人島の1枚的なアルバムで,録音から50年経過した現在でも,一切の古さを感じることなく,未だこの演奏を超えるものは出てきておらず,きっと今後も出ることがないでしょう。
 クラシック・ファン,この曲のファンは誰しもが異論のない,絶対的な演奏がこのCDです。
 ヨッフムは同曲を52年にバイエルン放送響とも録音しているようですが,こちらはモノラル録音と言うことで,この曲を聴くにはやはりステレオ録音が望ましいでしょう。
 さて,この演奏は,オルフ自身が監修したこともあり,指揮,オーケストラ,合唱,歌手の全てにおいて頂点に立つ演奏でしょう。
 特にソリスト群はヤノヴィッツ,シュトルツェ,フィッシャー=ディースカウと,この時代を代表する歌手を揃えており,それぞれがその実力を発揮しており,文句のつけどころがありません。

 次にお薦めしたいのが,小澤征爾の2度目の88年の録音です。
 最初の録音は,69年にボストン響と録音をしており,私も所有しておりますが,内容は新盤の方が断然迫力があり,出来も非常に良いものとなっております。
 ベルリン・フィルという最強のオーケストラと,マーラーの交響曲第2番「復活」でも共演している,気心の知れた晋友会合唱団と渾身の演奏を披露しているとともに,グルベローヴァを始めとした豪華で充実したソリストで望んだ,小澤征爾の代表盤と言っても良いでしょう。

  ドイツが誇るスーパーオーケストラと言えばベルリン・フィルですが,アメリカが誇るのはシカゴ響です。
 そのシカゴ響とレヴァインの共演(84年)により,素晴らしいカルミナ・ブラーナが聴くことができます。
 元来,レヴァインは私としては好きではありませんが,シカゴ響との録音は悪くなく,特にこのスーパーオーケストラの迫力を十分に活かしているこの曲や,ホルストの組曲「惑星」,マーラーの一連の交響曲などは評価に値する演奏です。
 ソプラノのアンダーソンの美声や,テノールのクリーチはカウンターテナーをも思わせ,好演に花を添えております。

 少々古い録音を1つ,ケーゲル指揮,ライプツィヒ放送響の59年の録音をお薦めします。
 ケーゲルはこの手の合唱付きの音楽を得意としておりますが,この演奏では壮年期のケーゲルらしい異様な緊張感と鋭利な刃物のような切れ味,ある意味変態的な強烈なリズムが,非常に刺激的な音楽を作り上げております。
 その演奏を一言で表すならば,「えげつない演奏」。
 なお,ケーゲルは70年代に同じオーケストラを用いて,3部作の「トリオンフィ」を録音しておりますが,こちらは未聴です。

 プレヴィン=ウィーン・フィルの93年ライヴの演奏もお薦めしておきましょう。
 プレヴィンはこの曲を74年にもロンドン響と録音しており,2度目の録音となります。
 プレヴィンは元々ポピュラー系の音楽家でありましたが,クラシック界に移ってきて間もない頃のこの曲の録音が,1回目のロンドン響との録音であり,その後,19年の時を経て満を持して2回目の録音に望んだのがこの演奏で,ポピュラー系出身からか,楽曲の聴かせどころやソリストへの配慮などの「ツボ」を押さえている指揮者でもあり,そのような意味では,この曲や数々のソリストと共演した協奏曲の録音などが,好評かを得るのも頷けます。
 しかも,ライヴ録音でありますことから,緊張感が聴き手に伝わってくるとともに,録音場所がムジーク・フェライン(ウィーン楽友協会)ということもあり,録音の良さと心地よい残響が印象的な秀演です。

 最後に,ヨッフムの演奏に肉薄している唯一の演奏であります,ティーレマン=ベルリン・ドイツ・オペラ管の98年の録音をお薦めしましょう。
 ベルリン・ドイツ・オペラ管のこの曲の演奏と言えば,ヨッフムの名盤を思い出すわけですが,レーベルDGと同じですので,明らかにDGがヨッフムのセールスを意識した中で,この録音を行ったことでありましょう。
 さて,そのDGの期待に対して演奏はどうかと言うと,上記のとおりその狙いは成功したようで,繰り返しますが,ヨッフムの名盤に迫るような渾身の演奏となっております。
 ティーレマンはコンサート指揮者としてのみならず,数々の歌劇場においてオペラを振っており(むしろこちらの方が多い),このことから曲の盛り上げ方を十分に認識しており,素晴らしい演奏となっております。
 そして何より,合唱の出来が素晴らしく,さらにイエス=キリスト教会での録音も優秀で,この部分についてはヨッフム盤を上回っております。
 ただ残念なのが,ソリスト群の力量が少々気になるところではありますが,相対的には現代の名盤と言えるでしょう。