クラシックにくびったけ  
     

S・ラフマニノフ

 
ピアノ協奏曲第2番ハ短調作品18

【特選】
   ピアノ:スヴャトスラフ・リヒテル
  指揮:スタニスラフ・ヴィスロツキ
  演奏:ワルシャワ国立フィルハーモニー管弦楽団
  録音:1959年
【推薦①】
   ピアノ:セルゲイ・ラフマニノフ
  指揮:レオポルト・ストコフスキー
  演奏:フィラデルフィア管弦楽団
   録音:1929年
【推薦②】
   ピアノ:ウラディーミル・アシュケナージ
   指揮:アンドレ・プレヴィン
   演奏:ロンドン交響楽団
   録音:1970年
【推薦③】
  ピアノ:アルトゥール・ルービンシュタイン
   指揮:ユージン・オーマンディ
   演奏:フィラデルフィア管弦楽団
   録音:1974年
【推薦④】
   ピアノ:リーリャ・ジルベルシュテイン
   指揮:クラウディオ・アバド
   演奏:ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
   録音:1991年ライヴ
【推薦⑤】
   ピアノ:クリスティアン・ツィマーマン
   指揮:小澤征爾
   演奏:ボストン交響楽団
   録音:1997年
【推薦⑥】
  ピアノ:エレーヌ・グリモー
  指揮:ウラディーミル・アシュケナージ
  演奏:フィルハーモニア管弦楽団
  録音:2000年
【推薦⑦】
   ピアノ:ラン・ラン
   指揮:ヴァレリー・ゲルギエフ
   演奏:サンクトペテルブルク・マリンスキー劇場管弦楽団
   録音:2004年ライヴ

【解説】
  この曲は,文字どおりラフマニノフが作曲した2番目のピアノ協奏曲で,その屈指の旋律の美しさによって,ラフマニノフが協奏曲作曲家としての名声を手にした,正に出世作と言えます。
  ラフマニノフは,交響曲第1番を作曲したものの,批評家の酷評に遭い,精神的なダメージを被っていましたが,その後に快方に向かった後に書いたのがこの曲です。
  この曲は,あらゆる時代のピアノ協奏曲を通じて,最も任期のある協奏曲の1つでありますとともに,ロシアのロマンは音楽を代表する名曲でもあります。
  この曲のピアノ独奏は,その他のラフマニノフのピアノ曲同様に,非常に難易度の高い曲となっており,和音の連打部分(第1楽章)では10度の間隔で手を広げることを要求されていることから,手の小さいピアニストはアルペジオにして弾くことが通例となっております。
  曲は伝統的な3楽章形式を取っております。
  第1楽章はソナタ形式で書かれており,第1主題は弦楽器により提示されますが非常にインパクトのある主題となっており,ピアノによる主題提示がないことが最大の特徴であります。
  第2楽章は,複合三部形式で書かれており,非常に神秘的な弦楽合奏から始まり,優しく甘美な緩徐楽章となっております。
  第3楽章はスケルツォ的な気まぐれな第1主題と,抒情的な第2主題が交互に現れ,最後はカデンツァの後に全合奏で上記の2つの主題が融合されて盛り上がりを示します。

【推薦盤】
  この曲には,古くからいくつかの名盤が存在しますが,中でも,リヒテルのピアノ,ヴィスロツキ=ワルシャワ国立フィルの59年の録音は,世界中で評価を受けている演奏で,特選盤とします。
  ラフマニノフ特有の暗い情感を,非常に豊かな表現ができているとともに,非常に硬派な部分や骨太の部分もある演奏です。
 バックを任されているヴィスロツキの演奏も,派手さこそないものの堅実かつ質実剛健で,リヒテルの独奏を支えております。
  また,カップリング曲は,チャイコフスキーのピアノ協奏曲第1番(カラヤン=ウィーン響)で,こちらも名演誉れ高い演奏ですので,購入して損はないと思います。

  次に,推薦盤については,録音年代順に紹介していきましょう。
  作曲者のラフマニノフ自身の独奏,ストコフスキー=フィラデルフィア管の29年の録音から。
  音質的には乏しいものの,ラフマニノフのピアノを聴くことのできる貴重な録音です。
  ラフマニノフは2㍍近い慎重の持ち主で,必然的に手も大きく,この演奏では分厚い和音が轟く,快速テンポの協奏曲を披露しております。
  解説にもあります技巧的な部分も,非常に早いテンポで難なくこなしているところは,ラフマニノフのピアニストとしての技量を証明しており,指揮者のストコフスキーの演奏によくあるテンポの揺れもほとんど無く,ラフマニノフの独奏を支えております。

  次に,アシュケナージの独奏,プレヴィン=ロンドン響の70年の録音をお薦めしましょう。
  このコンビはある意味非常に理想的であると言え,ロシア出身でラフマニノフを得意としているアシュケナージと,交響曲第2番の原典版の普及に尽力したプレヴィンの模範的演奏です。
  アシュケナージのピアノは,テクニックは安定しておりますが,若干パンチに欠けるところがありますが,ラフマニノフの曲は非常に彼のスタイルにマッチしており,現存するピアニストの中でも,ラフマニノフを弾かせたらグリモー以外に敵うものはいないでしょう。
  独奏・指揮者ともども安定感のある安心して聴くことのできる,万人にお勧めできる演奏内容となっております。

  71年の録音で,ルービンシュタインの独奏,オーマンディ=フィラデルフィア管の演奏も,上記のアシュケナージ同様に安定感のある演奏を披露しております。
 ルービンシュタインはショパン弾きとして名を馳せましたが,実はオールラウンダーで,ロシア物にも素晴らしい演奏がありますが,その中でもこの演奏が代表格となります。
 堅実なテクニックに裏付けされ,細部までこだわったピアノを披露するところは,やはりルービンシュタインとうなずかざるを得ません。
  オーマンディの指揮も,他の交響曲などの管弦楽曲では物足りなさを感じる指揮者ではありますが,協奏曲の伴奏では,彼らしく端正で実直な演奏で独奏者を支えており,見事にマッチした演奏を披露しております。
  なお,さらにキリリと締まった演奏をお好みの方は,ライナー=シカゴ響との共演をお薦めします。

 女流ピアニストの独奏の演奏で,ジルベルシュテインの独奏,アバド=ベルリン・フィルの91年ライヴをお薦めしましょう。
 この演奏の特徴は,決して技術的な凄みは感じないものの,ピアノ独奏の深みのある味わい深い演奏であること,ベルリン・フィルの可憐な音色,それらがマッチしていることにあります。
 決して一流のピアニストではないジルベルシュテインではありますが,アバドが率いるベルリン・フィルとの相性が抜群な演奏となっております。

 次に,ツィマーマン(ツィメルマン)の独奏,小澤征爾=ボストン響の97年の録音をお薦めします。
 この演奏の凄さは,ツィマーマンが持っている個性を最大限押し殺して,感傷的にならずに音楽を推し進めているところで,さらには第3楽章で見せるテクニックは華麗そのもので,そう言った意味ではリヒテルの演奏に匹敵する独奏です。
 また,小澤の伴奏もセンシティヴで,ツィマーマンの独奏を大きな力で支えており,小澤のロシア物にありがちな変な明るさがない好演です。
 さらには,録音も極めて優秀であることを申し添えます。

 女流ピアノストの独奏をもう1つ,グリモーの独奏,アシュケナージ=フィルハーモニア管の2000年の録音をお薦めしましょう。
 グリモーは美人ピアニストとしても有名でありますが,天は二物を与えることもあるのです。
 彼女のラフマニノフは,現代最高のものを聴かせてくれ,この曲もそうですが,ピアノ独奏曲(音の絵など)も非常に美しい演奏を披露してくれております。
 顔も演奏も美しいのですが,一方で強靱さも備えた演奏となっており,圧倒的な推進力を見せる,「美」と「動」が融合した素晴らしい演奏です。
 ちなみにグリモーは,92年にもこの曲を録音(ロペス=コボス指揮:ロイヤル・フィル)しており,これも素晴らしい演奏でありますが(この演奏よりは少々若さが出ているとともに,伴奏も少々落ちます),8年の間に2度もこの曲を録音していることからも,曲に対する思い入れは非常に強いものがあると容易に考えられます。
 指揮者アシュケナージの伴奏も,ラフマニノフをよく理解した素晴らしいものとなっております。

 最後に,ラン・ランの独奏,ゲルギエフ=サンクトペテルブルク・マリンスキー劇場管の2004年ライヴをお薦めしましょう。
  ラン・ランは中国出身の,同国初のヴィルトゥオーゾ・ピアニストと言っても良いでしょう。
 現代の現役ピアニストの中でも,これだけのテクニックを有するピアニストは少なく,名前を挙げるなら間違いなくデニス・マツーエフとラン・ランということになるでしょう。
 さて,演奏内容ですが,ラン・ランの大熱演となっており,相変わらずのテクニックを披露しております。
 その強靱なタッチは,他の演奏を圧倒しており,別次元の演奏内容ですが,一方ではあまりにも直線的な面も備えている演奏とも言え,多少賛否は分かれるかもしれません。
 しかしながら,このような特異な演奏も,私としては十分に受け入れることができ,かつゲルギエフの非常に濃い伴奏も見逃せません。