クラシックにくびったけ  
     

S・ラフマニノフ

 
交響曲第2番ホ短調作品27

【特選】
  指揮:エフゲニー・スヴェトラーノフ
   演奏:ソヴィエト国立交響楽団
   録音:1985年ライヴ
【推薦①】
  指揮:エフゲニー・スヴェトラーノフ
   演奏:ロシア国立交響楽団
   録音:1995年
【推薦②】
  指揮:ヴァレリー・ゲルギエフ
  演奏:サンクトペテルブルク・キーロフ管弦楽団
  録音:1993年
【推薦③】
  指揮:アンドレ・プレヴィン
   演奏:ロンドン交響楽団
   録音:1973年
【推薦④】
   指揮:クルト・ザンデルリンク
   演奏:フィルハーモニア管弦楽団
   録音:1989年
【と盤】
   ピアノ:ヴォルフラム・シュミット=レオナルディ
   指揮:テオドーレ・クチャル
   演奏:ヤナーチェク・フィルハーモニー管弦楽団
   録音:2007年

【解説】
 ラフマニノフは,自身の初めての交響曲であります第1番を作曲しましたが,初演が大失敗となり,この交響曲の創作に並々ならぬ情熱と労力を注いでいたラフマニノフは,精神的に大きな打撃を受け,その証拠に楽譜は本人により出版禁止となったほどです。
 その失望の深さは,ピアノ協奏曲第2番を書き上げるまで,ごくわずかの作品を除き作曲ができなくなるほどでありました。
 ピアノ協奏曲第2番の成功により自信を回復したラフマニノフは,2番目の交響曲の作曲に着手しました。
 この交響曲第2番は,ロシアの交響曲の伝統に従って,ドラマティックな連続体で構成されております。
 この曲は,チャイコフスキーの交響曲第5番の流れを組むこの曲は,その後のプロコフィエフの交響曲第5番やショスタコーヴィチの交響曲第5番「革命」へと続いていきます。
 4楽章形式を持つこの曲ですが,冗長だということで,1950年代までは短縮版で演奏されておりましたが,73年に録音されたプレヴィン=ロンドン響の録音において,初めて完全全曲版で録音されて以来,現在では完全全曲版での録音がほとんどとなりました。

【推薦盤】
 この曲の特薦盤は,スヴェトラーノフかゲルギエフかで少々迷いました。
  どちらも素晴らしい演奏なのですが,結局,非常に個性的でこれまでのこの曲の演奏概念をひっくり返したとも言える,スヴェトラーノフ=ソヴィエト国立響の85年のライヴを特薦盤とします。
  スヴェトラーノフは2種類の音源を所有しておりますが,録音で言えば圧倒的に95年のロシア国立響とのスタジオ録音となるのですが(85年ライヴは当時としては音が悪すぎ),演奏内容では85年ライヴがあまりにも圧倒的すぎます。

  さて,特薦盤の85年ライヴですが,曲のイメージをくつがえす凄い演奏で,全曲を貫くこの狂ったようなハイテンションに驚愕させられます。
  終楽章の速さや,アダージョのクライマックスのテンポの変化など,聴きどころ満載で,最盛期のスヴェトラーノフの凄演となっております。

  一方,95年のスタジオ録音ですが,こちらは85年ライヴと違い,壮大なスケール感でラフマニノフの究極のロマンティシズムの世界を描いており,スヴェトラーノフの晩年特有のゆったりとしたテンポと,ロシア国立響の深い響きが融合し,この上なく素晴らしい演奏に仕上がっております。
  上記2種類の音源を購入する前に,この曲のベストであったのが,ゲルギエフ=サンクトペテルブルク・キーロフ管の93年の録音です。
  賛否両論あるこの演奏ですが,男性的なロマンティシズムを感じさせる演奏だと私は思っております。
  男性的という部分で,色々と感じられる部分もあると思いますが,この演奏はこの演奏でそこが特徴であり,プレヴィンのような歌心はあまり感じさせない部分が,これまた賛否両論なのでしょう。
  そういった意味では,スヴェトラーノフの演奏のような決定打がないのかもしれません。

  2008年に,ラフマニノフの演奏では定評のあるロンドン響と再録(ライヴ)を行っていますが,こちらは未聴。
  このような決定打が演奏に表れているか・・・,聴いてみたいものです。
  なお,この録音は第1楽章の反復を実行している数少ない録音となっております。

  古くからの名盤としては,ある意味,この曲を人気曲にまでした功労者であります,プレヴィン=ロンドン響の73年の録音を推薦盤から外す訳にはいきません。
  解説でも記したとおり,この曲は,演奏時間の長さもあってか,この録音が行われた当時は部分カットして演奏されるのが普通でしたが,プレヴィンはここですべての音符を大切に演奏し,ラフマニノフの音楽の魅力をあますところなく伝えてくれています。
  プレヴィンは,この録音に先立ち,同じオーケストラと65年に録音しておりますが,このときはカットを採用しております。
  実はこの間,プレヴィンがソヴィエトでの公演でこの曲を演奏した際に,ムラヴィンスキーから全曲版の存在を教えられ,それを使用するように薦められたのをきっかけに全曲版で演奏するようになったとのこと。
  プレヴィンのこの録音以降,そのほとんどが完全全曲版で演奏されることとなり,そういった意味ではプレヴィンの功績は大きいと思います(ムラヴィンスキーのこの曲の録音はあるのでしょうか?)。
  さて,演奏ですが,ラフマニノフならではの情熱的な美しさ,とろけるような甘美さでは,この演奏の右に出る録音はないと思いますし,それがこの演奏の最大の特徴でもあります。

  次に,これも名盤誉れ高い,ザンデルリンク=フィルハーモニア管の89年の録音を推しましょう。
  イギリスのオーケストラが,これほど雄大にロシア音楽を表現している例もあまりないような気がします。
  まるでブルックナーのように,巨大なスケールで太く逞しくうねる旋律が奏でる叙情美が凄いです。
  晩年のザンデルリンクの特徴が十分に出ている,素晴らしい演奏内容となっており,併せて録音も優秀です。

  さて,「と盤」を1枚。
  ラフマニノフと言えば,この曲よりも人気があるのがピアノ協奏曲第2番を筆頭とするピアノ協奏曲群でありますが,一方でこの曲もラフマニノフの甘美な旋律を十分に備えていることから,オランダのあるレコーディング・プロデューサーが,大胆にもこの楽曲を基にピアノ協奏曲にアレンジしようと思い立ち,これを作曲家のヴァレンベルクに依頼しました。
  そしてできあがったのが,俗称でピアノ協奏曲第5番でありますが,協奏曲らしく3楽章形式となっており,この曲の第1楽章,第3楽章,第4楽章を基に編曲を行ったのでありますが,それの世界初演・初録音が発売されており,それが,シュミット=レオナルディのピアノ,クチャル=ヤナーチェク・フィルの2007年の録音です。
  演奏云々より,この企画こそが「と盤」の所以ですが,何とラフマニノフの権利団体と孫であるアレクサンドル・ラフマニノフの許可を得ているというのも驚きであります。

 ※「と盤」とは,とんでもない演奏の録音を指すものです。