クラシックにくびったけ  
     

S・ラフマニノフ

 
ピアノ協奏曲第3番ニ短調作品30


【特選】
  ピアノ:ウラディーミル・ホロヴィッツ
  指揮:フリッツ・ライナー
  演奏:RCAビクター交響楽団
  録音:1951年

【推薦①】
  ピアノ:セルゲイ・ラフマニノフ
  指揮:ユージン・オーマンディ
  演奏:フィラデルフィア管弦楽団
  録音:1939年から1940年

【推薦②】
  ピアノ:マルタ・アルゲリッチ
  指揮:リッカルド・シャイー
  演奏:ベルリン放送交響楽団
  録音:1982年ライヴ

【推薦③】
  ピアノ:エフゲニー・キーシン
  指揮:小澤征爾
  演奏:ボストン交響楽団
  録音:1993年ライヴ

【解説】
 この曲は,文字どおりラフマニノフが作曲した3番目のピアノ協奏曲で,第2番同様に代表作となっております。
  初演はラフマニノフ自身のピアノ(指揮:ダムロッシュ,演奏:ニューヨーク響)で行われましたが,場所はニューヨークで,ラフマニノフのアメリカ進出の際に行われました(第1回アメリカ演奏旅行)。
  曲は,演奏者の技術的かつ音楽的要求の高いものとなっております。
  また,ラフマニノフは作曲当初の版とは別に,自身が演奏する際にもカット版で演奏するのが普通となり,作曲者に模して古くはこのカット版で演奏されておりましたが,現在は通常版で演奏されます。
  この曲の演奏には2つの逸話が残っております。
 1つ目は,初演の翌年に,同じニューヨークでラフマニノフ自身のピアノで再演されましたが,そのときの指揮者がマーラー(演奏はニューヨーク・フィル)で,オーケストラが慣れないスラヴ系のこの名曲に対してざわついていた際に,独奏であり作曲者のラフマニノフの前で,マーラーが「静かにしなさい,これは傑作です」と言い切り,完璧を目指して長時間のリハーサルを繰り返したのに対し,感銘を受けたラフマニノフは,この指揮者マーラーを「ニキシュと同列に扱うに値する指揮者はマーラーだけだ」と断言したとのことでした。
  2つ目は,この曲を愛奏したホロヴィッツがアメリカデビューを果たす際に,本番の4日前にラフマニノフと初対面を果たし,その際にこの曲の2台のピアノのための版を2人で演奏(ホロヴィッツがソロ,ラフマニノフが伴奏のそれぞれパートを担当)したことを契機に,2人の交流が始まったとのことです。
  作品の構成は,一般的な協奏曲同様に3楽章形式で書かれており,ピアノ協奏曲としては規模が大きく,演奏時間も40分を超えます。
  第1楽章は自由なソナタ形式で書かれており,特にピアノが導入する第2主題は抒情的で美しいものとなっております。
  第2楽章は三部形式と変奏曲からなっており,「間奏曲」とされておりますが,それ以上の役割を果たす楽章となっております。
  第3楽章はソナタ形式となっておりますが,ラフマニノフ独自の形式とも言え,非常に力強い楽章であります。

【推薦盤】
 まずは特選盤ですが,作曲者自身と交流があり,この曲を「私の曲」と自負しておりました,ホロヴィッツの独奏,ライナー=RCAビクター響の録音をしたいと思います。
  51年の録音と言うこともあり,音質的には多少難がありますが,それをもってしても十分に特選盤と位置付けられる名盤と言えます。
  ホロヴィッツの演奏は,作曲家のラフマニノフ自身も感心したとの話が残っており,この曲の世界初録音(SP)もホロヴィッツ(30年コーツ=ロンドン響)でありました。
  これらの他にも,78年のオーマンディ=ニューヨーク・フィルとの録音の3つが正規録音として残っているほか,ライヴ録音も残されております。
  ホロヴィッツはこの曲を27年にムックと初演奏をした後には,クーセヴィツキー,ストック,ダムロッシュ,モントゥ,メンゲルベルク,フルトヴェングラーなどの当代の名指揮者,巨匠指揮者との共演をしており,正にこの曲は「私の曲」であったわけです。
  この演奏ですが,作曲者の自作自演を凌駕できた唯一の演奏と言われるほど素晴らしい内容となっており,きらびやかで華麗なテクニックを駆使し,ヴィルトゥオーゾとして恥じることのない鉄壁な演奏を披露しており,ライナーの伴奏も例の如く直線的で圧倒的な演奏となっております。

  次に,やはりこの録音で外せないのは,自作自演となったラフマニノフの独奏,オーマンディ=フィラデルフィア管の39年から40年にかけての録音です。
  さすがに録音年代が古いことから,痩せている音質ではありますが,作曲者自身が描いた音楽のイメージを知る上では貴重な録音と言えます。
  この時代のアメリカにおける協奏曲録音は,当代を代表するアメリカで活躍していた指揮者のオーマンディやストコフスキー,トスカニーニが巨匠達と伴奏を務めて録音することが多く,オーマンディにおいてはこの録音のほか,ブラームスの二重協奏曲(ハイフェッツ,フォイアマン)やシューマンのチェロ協奏曲(カザルス)などの名盤があり,晩年の安定感のみが目立つ演奏,伴奏とはひと味違う名演奏,名伴奏を披露しております。

  現代のこの曲の名演奏と言えば,最初に思いつくのが女流ピアニストのアルゲリッチの独奏,シャイー=ベルリン放送響の82年ライヴがあります。
  この頃のアルゲリッチのライヴ録音は非常に素晴らしく,ハイテンションな演奏を聴かせてくれており,この録音のほかにもチャイコフスキーのピアノ協奏曲(コルト=ワルシャワ国立フィル,コンドラシン=バイエルン放送響いずれも80年ライヴ)などがあります。
  女性とは思えないタッチの強さと,ひらめきのある個性的な演奏をこのライヴでも聴かせてくれているとともに,シャイーもアルゲリッチを受け止めた明るい温色の伴奏も好感が持てます。

  最後に,キーシンの独奏,小澤征爾=ボストン響の93年ライヴをお薦めしましょう。
  この演奏は,ライヴ録音と言うこともあり,キーシンと小澤の気合いが感じられ,キーシンならではの明確なタッチと,小澤の表情豊かな伴奏としての表現がマッチしており,素晴らしい演奏内容となっております。
  その他にも,クライヴァーン(コンドラシン=シンフォニー・オブ・ジ・エアー)の記念碑的なライヴ録音や,アシュケナージの新旧2種類(旧盤:プレヴィン=ロンドン響,新盤:ハイティンク=アムステルダム・コンセルトヘボウ管)の録音,量感のあるブロンフマン(サロネン=フィルハーモニア管),ハイテンション・スーパーテクニックのマツーエフ(サッカーニ=ブダペスト・フィル)のライブ録音,ジルベルシュテイン(アバド=ベルリン・フィル)の秀演など,名演が多い曲であります。