クラシックにくびったけ  
     

M・ラヴェル

 
ボレロ

【特選】
    指揮:ロリン・マゼール
    演奏:ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
    録音:1996年

【推薦①】
    指揮:シャルル・ミュンシュ
   演奏:パリ管弦楽団
   録音:1968年

【推薦②】
    指揮:アンドレ・クリュイタンス
    演奏:パリ音楽院管弦楽団
    録音:1961年

【推薦③】
   指揮:佐渡裕
    演奏:コンセール・ラムルー管弦楽団
    録音:1999年

【推薦④】
    指揮:セルジュ・チェリビダッケ
    演奏:ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団
    録音:1994年

【と盤】
    指揮:ヘルマン・シェルヘン
    演奏:ウィーン国立歌劇場管弦楽団
    録音:1957年

 

【解説】

 ボレロですが,ご存じのとおりバレエ音楽で,同一のリズムが保持されるなかで2種類のメロディが繰り返され,冒頭から最後まで1つのクレッシェンドが繋がっているという,クラシック音楽では極めて異例な構成を有している曲です。

 様々な楽器が2つのメロディとリズムの刻みを交代しながら曲を進めていく中で,2台のスネアドラムが同一のリズムを最後まで刻みます。

 ある意味では馬鹿げた曲と言えますが,発想は非常にユニークで斬新で,ラヴェルらしいオーケストレーションが披露されます。

 

(推薦盤)
 圧倒的な本命がこの曲にはあります。
 ただ,好き嫌いのはっきりする演奏でもありますが,私は,マゼール=ウィーン・フィルの96年の新盤の演奏をお奨めしたいです。
 マゼールは,若かりし頃には「奇才」と呼ばれており,同じように呼ばれていたマルケヴィチともども,正に奇才ぶりを発揮していましたが,その後はすっかり大人しくなっていた印象が強いマゼールの起死回生の録音がこのラヴェルの管弦楽曲集です。
 輝きのある音色をウィーン・フィルのメンバーが奏でていることは想像がつくと思いますが,華麗なる「大どんでん返し」が終盤に待ち構えております。
 上記のとおり,この曲はテンポが変わらないのが大きな特徴なのですが,終盤に来て曲が盛り上がっているときに,何とマゼールは大幅にテンポを揺らす,この曲には決してあってはならない芸当を見せるのです。
 正直,最初に聴いた時は椅子から転げ落ちそうになりましたが,見事にこれがはまっているのです。
 きっとマゼールは「ニヤリ」としながら指揮をしていたのだと思います(NHK響との共演でも同様の解釈を見せております)。
 この確信犯的な演奏は,もちろん「と盤」ではあるのですが,この演出も含め演奏内容はあまりにも素晴らしく,特選に値するものです。
 もちろん,その演出後は大団円で曲をまとめており,奇才ぶりを大いに発揮した演奏です。
 これを聴いていると,ボスコフスキーの引退後にニュー・イヤー・コンサートで揚々と指揮をしていた頃のマゼールを思い出さざるを得ませんでした。
 それにしても,天下のウィーン・フィルをここまで追い込むマゼール,ただものではありません。
 マゼール盤が出るまでの最高峰の演奏であった,新生パリ管との数少ない録音の1曲である,ミュンシュ盤(68年録音)も素晴らしい演奏です。
 パリ管との数少ない一連の録音は,幻想交響曲やブラームスの交響曲第1番に代表されますとおり,非常に力強く,ミュンシュ最期にして渾身の演奏となっておりますが,ボレロも同様です。 
 昔からフランス物も得意としていたミュンシュならではの演奏となっております。

 気品のあるボレロと言えば,クリュイタンス=パリ音楽院管(61年録音)でしょう。
 マゼールなどと比較して大袈裟な演奏ではなく,エレガントでありながら終盤ではゴテゴテではなく艶のある筋肉質の演奏に変化していくところは,さすがクリュイタンスと言わざるを得ません。 
 彼のフランス物は,ハズレの演奏を聴いたことがないですね。

 ダイナミックなボレロを聴きたい場合は,佐渡裕=ラムルー管(99年録音)をお奨めします。
 彼はバーンスタイン最後の弟子でありますが,バーンスタインほどの深みは引き継いでないですが,ダイナミックさは十分に引き継いでいるため,ドイツ物などは聴く気にならないですが,それ以外では結構健闘しており,フランス物,特にラヴェルやイベールなどは,彼の良さが出ている演奏も多く(師匠を上回っている!),このボレロもそういった爽快な演奏となっております。
 ラムルー管の印象は,元々はパワー不足という印象を持っておりましたが,この演奏ではしっかりと金管も鳴っており,申し分ない迫力を得ることに成功しております。
 蛇足ですが,ボレロの初演もこのラムルー管です。

 ある意味,「と盤」でもよいと思う演奏が,チェリビダッケ=ミュンヘン・フィルの94年ライヴの凄演です。
 テンポ設定が相変わらずのスローを採用しているのですが,実はラヴェル自身が設定し,指揮した演奏もスローなので,そういった意味ではラヴェルの意図を十分に組み込んだ演奏とも言えますが,他の演奏で慣れている方は,テンポ設定に不満を抱くでしょう。
 ただ,演奏内容は彼らしい情報量の多い演奏となっているとともに,腹の底からわき出てくる迫力も,何とも言えない興奮を覚えます。
 他にも,ボレロではプレートル=ベルリン・ドイツ響の熱い演奏や,マルティノン=シカゴ響の迫力ある演奏もあります。

(と盤)
 「と盤」では,シェルヘン=ウィーン国立歌劇場管の57年の録音を挙げたいと思います。
 この演奏,とにかく「へんてこりん」なのです。
 どこが,と言うと,以下の全てがです。
  ①リズムを司る,ある意味この曲の主役であるスネアドラムの「響き線(スナッピー:ドラムの裏側についている細いコイル状の物)」を外している(レバーを緩めている)ことから,スネアではなく和太鼓あるいはタムタムのような音になっていること。
  ②そのスネアドラムが曲の途中から2台に増強されるのですが,この2台のスネアのリズムが合っていないこと。
 もしかしたら意図的かも知れません,指揮者の。
 だって,決して揃わないのですから,2台が。
  ③終盤に,そのスネアの1台が,突然「響き線」を入れるという意味不明のことを行っていること。
  ④またまたスネアですが,最後の1音がリムショット(スティックでスネアの縁を叩く)になっていること。
  ⑤またまたスネアですが各フレーズ(2つのメロディ)の最後で,妙な「決め」を入れていること。
 わかりやすく言うと,各フレーズの最後でクレッシェンドをして締めている感じ。
  ⑥有名なトロンボーンのソロの部分で,ソロは上手いのですが,何故かバックの一瞬,音が途切れてしまうこと。
 これは⑤に関係していることで,妙な「決め」を入れることで,逆にリズムを壊している。
 と言うか,これは多分スネア奏者のミスと思われる。
  ⑦トロンボーン以外のソロのリズムや音色がおかしい,特にファゴットとソプラノ・サックス。
  ⑧曲全体にクレッシェンドが係っているにも関わらず,時折ディミヌエンドをもかけてしまっていること。
  ⑨上記のような演奏だから,最後は大団円となっていないこと。
 以上がこの演奏の変なところで,オケが下手と言うよりも,何かが変なのです,とにかく。
 全ての要因はスネアにあると考えられますが,指揮者の意図なのかは不明。
 ただヘタなのであれば,こんな録音を残す必要はないはず。 
 それにしてもやはり意図的な演奏と思えます。
 しかしながら,この演奏を聴いていると,実はボレロの曲の良さを再発見できたりします。
 不思議で変な演奏です。
 ※「と盤」とは,とんでもない演奏の録音を指すものです。