クラシックにくびったけ  
     

M・ラヴェル

 
ピアノ協奏曲ト長調

【特選】
  ピアノ:エレーヌ・グリモー
  指揮:デイヴィッド・ジンマン
  演奏:ボルティモア交響楽団
  録音:1997年

【推薦①】
  ピアノ:エレーヌ・グリモー
  指揮:ヘスス・ロペス=コボス
  演奏:ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団
  録音:1992年

【推薦②】
  ピアノ:マルタ・アルゲリッチ
  指揮:クラウディオ・アバド
  演奏:ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
  録音:1967年

【推薦③】
  ピアノ:マルグリット・ロン
  指揮:ジョルジュ・ツィピーヌ
  演奏:パリ音楽院管弦楽団
  録音:1952年

【推薦④】
  ピアノ:パスカル・ロジェ
  指揮:シャルル・デュトワ
  演奏:モントリオール交響楽団
  録音:1982年

   
 

【解説】
この曲は,そもそもラヴェルのアメリカ演奏旅行のために構想されましたが,別の曲に差し替えらました。
その後,「バスク狂詩曲」として構想,作曲を着手しましたが,「喜遊曲」という標題にする予定が,最終的には協奏曲になったという経緯を持っております。
ちなみに「バスク」とは,ラヴェルの母の出身地であります。
ラヴェルはピアノ協奏曲を2曲(もう1曲は左手のためのピアノ協奏曲)書いておりますが,この曲は作曲活動の最晩年の曲で,ラヴェルの完成した作品のうち最後から2番目の曲となりました(完成した最後の作品は歌曲集「ドゥルシネア姫に心を寄せるドン・キホーテ」)。
内容は,古典主義的な様式を取りつつも,民族的要素やジャズの要素など様々な新たな要素を入れております。
曲は3楽章形式で書かれており,第1楽章はソナタ形式で,「バスク狂詩曲」に由来する民族的雰囲気を持っております。
第2楽章は三部形式で,ピアノ独奏がスペイン風を思い浮かべるような旋律と,両手が交差するようなリズムが特徴です。
第3楽章は自由な形式で書かれており,ここでも「バスク狂詩曲」の影響が出ており,全曲通じて非常にリズミカルな曲調となっております。

【推薦盤】
最近,と言っても90年代以降ではありますが,注目している女流ピアニストが2人おります。
女流演奏家は数多くおりますが,非常に評価が高い演奏家はヴァイオリニストを除いてそう多くはないと思います。

20世紀前半の女流ピアニストでは,マルグリット・ロン,後半では現在も活躍しているマルタ・アルゲリッチで,これは誰もが異論のないところだと思います。
ロンのレパートリーはショパンやフランスものが中心ですが,アルゲリッチは広いレパートリーを有し,キャリア前半では独奏曲や協奏曲を,キャリア後半(現在を含む)は独奏曲をほとんど弾かず,協奏曲や特に室内楽に傾倒しております。

さて,これからが本題ですが,話を戻し,21世紀の女流ピアニストとなると,私が推したいのが,エレーヌ・グリモーとアリス=紗良・オットの美人ピアニストの2人です。
後者についての話は別の機会に譲るとして,グリモーはフランス出身のユダヤ系ピアニストで,84年にデビューを果たした逸材です。
録音数はそれ程多くはないですが,非常に華のあるピアニストで,特にラフマニノフの演奏は素晴らしいものがあります。
そのグリモーが好んで演奏しているのがこの曲で,そもそも録音が少ない彼女において,たった5年間で2回の正規録音を行っております。

その2回の録音のうち,新盤であります,ジンマン指揮,ボルティモア響の97年の録音を特選盤とし,旧盤のロペス=コボスの指揮,ロイヤル・フィルの92年の録音は推薦盤とします。
フランス出身でありながら,ラヴェル以外,というよりもこの曲以外はあまり演奏を行っていない彼女ですが,フランス人ピアニストらしい弾力性のあるタッチがこの演奏でも魅力的に現れており,洗練された若々しい情熱溢れる演奏となっております。
旧盤よりも新盤の方が落ち着きはあるものの,その精神的に深い位置からの情熱が感じられること,オーケストラのテンションが高いこと,リズムの刻みが明確であることから,新盤を特選としましたが,されとて旧盤も十分に推薦する値のある演奏であります。

同じく女流ピアニストのアルゲリッチの独奏,アバド=ベルリン・フィルの67年の録音をお薦めしましょう。
この2人のコンビは,この録音の17年後にもロンドン響と再録音を行っております。
双方の録音とも非常に素晴らしい演奏でありますが,旧盤の方が緊張感が溢れているほか,アルゲリッチの特徴でもある自発性が前面に出ており,自由闊達さに優れております。
アバドの伴奏も相変わらず堅実で,60年代を代表するコンビにおける協奏曲録音であります。

次に,またまた女流ピアニストで少々古い録音となりますが,ロンの独奏,ツィピーヌ=パリ音楽院管の52年の録音をお薦めしましょう。
この曲の初演は,作曲者のラヴェル自身の指揮,ラムルー管弦楽団で32年にパリにて行われましたが,その時の独奏を務めたのがロンであり,その初演は大成功を収めこの曲の献呈まで受けております。
録音こそ古いものの,やはりこの演奏も模範的演奏と言え,貴重な音源とも言えるでしょう。
演奏は,初演者・献呈者でもあるロンの独壇場で,曲を我が物としており,録音以外は素晴らしいものとなっております。
ロン,アルゲリッチ,グリモーと,20世紀前半から現代を代表する女流ピアニストが,この曲では名演を残しております。

最後に,ようやく男性のピアニストでありますロジェの独奏,デュトワ=モントリオール響の82年の録音をお薦めしましょう。
この演奏は,ある意味ではこの曲のスタンダードな,模範的な演奏と言えるでしょう。
フランスもののスペシャリストである両者のコンビで,ハズレがあるわけもなく,独奏,伴奏ともに生き生きとしたタッチや表現が活かされております。