クラシックにくびったけ  
     

G・ロッシーニ
 
歌劇「ウィリアム・テル」より序曲

【特選】
  指揮:ネヴィル・マリナー
  演奏:アカデミー室内管弦楽団
  録音:1976年

【推薦①】
  指揮:ロジャー・ノリントン
  演奏:ロンドン・クラシカル・プレイヤーズ
  録音:1990年

【推薦②】
  指揮:アルトゥーロ・トスカニーニ
  演奏:NBC交響楽団
  録音:1953年

【推薦③】
  指揮:フリッツ・ライナー
  演奏:シカゴ交響楽団
  録音:1958年

【推薦④】
  指揮:カルロ・マリア・ジュリーニ
  演奏:フィルハーモニア管弦楽団
  録音:1962年

【推薦⑤】
  指揮:リッカルト・シャイー
  演奏:ミラノ・スカラ座フィルハーモニー管弦楽団
  録音:1995年

【解説】
歌劇「ウィリアム・テル」は,ロッシーニの最後の歌劇で,それまで多くの作品を作曲してきて,金銭的に裕福になったロッシーニは,この作品の発表により優雅な隠居生活に入りました。

最後の作品であることから,曲の内容も充実(上演時間は約4時間と当時としては非常に長いオペラ)しており,有名な序曲にもその充実ぶりが洗われております。

ロッシーニは「セビリアの理髪師」に見られるように,オペラの序曲についてはこれまでに作曲した他の作品から転用したりすることも決して少なくなかったのですが,この曲は新しく作っただけではなく,ソナタ形式を使わずに4つの部分(「夜明け」「嵐」「静寂(牧歌)」「スイス軍隊の行進(終曲)」)が続けて演奏されるという,独創的な構成を与えています。

【推薦盤】
 この曲の本命は,マリナー=アカデミー室内管の76年の録音です。
 えっ,マリナーと室内オケ?という感じがするかもしれませんが,これが見事にはまっております。
 マリナーとイタリア物はレスピーギなどもそうであるとおり,意外と相性が良く, 特にロッシーニの序曲集は,機敏な室内オケを十分に機能させている名盤と言えましょう。
 フル編成オケと違い,巨大さには欠けますが,ロッシーニの時代は室内オケ程度でオペラなどもやられていたと思われますから,違和感はないはず。
 夜明けから例のファンファーレへの移行部分も,非常に劇的に描かれております。

 室内オケかつ古楽器演奏では,マリナーをも上回る,非常に劇的・刺激的な演奏を披露しているのが,ノリントン=ロンドン・クラシカル・プレイヤーズの90年の録音です。
 独特の「ため」といい,えげつないロッシーニ・クレッシェンドといい,飽きさせない演奏内容です。

 トスカニーニ=NBC響の53年の録音も,メリハリのある直線的な演奏で,ロッシーニの序曲集としては名盤であります。
 相変わらずのデットな録音が,ロッシーニの序曲では逆に効果を上げているような気がします。

 直線的な演奏といえば,ライナー=シカゴ響の58年の録音も良いでしょう。
 このころのシカゴ響は,パワーといい,機能性といい,世界一のスーパーオケと言えるのではないでしょうか。
 それを弾き出すためには,ライナーのような表現の演奏が効果的であったと言わざるを得ません。

 味わいのある演奏でありながら,時折見せる激しさが特徴なのが,ジュリーニ=フィルハーモニア管の62年の録音です。
 ジュリーニと言えば,晩年の粘り気のある演奏(ベートーヴェンやブラームス,ブルックナー,ドヴォルザークなどによく見られる)が印象的ですが,若かりし頃のこの演奏は,ジュリーニの激情が垣間見ることのできる,貴重な記録としても意味のある音源でしょう。

 比較的最近の録音で挙げるとなると,シャイーの演奏(録音は95年)ということになります。
 彼は,ロッシーニの序曲集を2回(ナショナル・フィルとスカラ座フィル)録音しておりますが,いずれも素晴らしい演奏内容となっておりますが,私個人としては新盤のスカラ座・フィルの方を好みます。
 上記のような演奏を聴いていますと,ゴージャスなカラヤンの演奏などは,豪華さだけの飾り物の演奏に聞こえてしまいます。