クラシックにくびったけ  
     

G・ロッシーニ
 
歌劇「どろぼうかささぎ」より序曲

【特選】
  指揮:セルジュ・チェリビダッケ
  演奏:ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団
  録音:1986年ライヴ

【推薦①】
  指揮:セルジュ・チェリビダッケ
  演奏:ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団
  録音:1995年ライヴ

【推薦②】
  指揮:ネヴィル・マリナー
  演奏:アカデミー室内管弦楽団
  録音:1976年

【推薦③】
  指揮:ロジャー・ノリントン
  演奏:ロンドン・クラシカル・プレイヤーズ
  録音:1990年

【解説】
 歌劇「どろぼうかささぎ」の序曲ですが,ロッシーニは,当時まだ創設40年ほどしか経っていないミラノ・スカラ座のために歌劇「試金石」歌劇「イタリアのトルコ人」を立て続けに作曲していました。

 まだ創設からの歴史が浅いスカラ座で歌劇「試金石」でオペラ作曲家としての初成功を収めたことや,続く歌劇「イタリアのトルコ人」が歌劇「アルジェのイタリア女」の二番煎じとして誤解されていたことなどから,ドイツやウィーンでの音楽の動向に敏感なミラノの聴衆を意識して,別の形の題材を選んだのがこのオペラです。

 序曲は,以前は日本でもマイナーな曲と扱われてきましたが(「ウィリアム・テル」「セビリアの理髪師」の2つの序曲はあまりにも有名ですが,その他では「絹のはしご」などが有名),近年,保険会社のCMで使用された(赤ちゃん同士が会話する場面)ことから,以前よりは有名になった感があるとともに,いわゆるロッシーニ・クレッシェンド(曲の中で長いクレッシェンドを指定してグングンと軽快に盛り上がっていく手法)が明確に出ている極めて快活な序曲に仕上がっております。

【推薦盤】
 この曲は「ウィリアム・テル」序曲同様に,曲自体に味があるため,単に直線的な演奏ではしっくりきません。
 その点,チェリビダッケ=ミュンヘン・フィルの86年の日本ライヴは,例の如くじっくりとしたテンポ設定でありますが,非常に丁寧でかつ起伏のある情報量の多い演奏であります。
 終盤のロッシーニ・クレッシェンドもしっかりと決まっており,名盤と言えます。
 ちなみに,ミュンヘンでの95年ライヴも同様のスタンスですが,録音の良さから日本ライヴを選びたいです。

 マリナー=アカデミー室内管の76年の録音ですが,機動力のある室内オケをフルに活用し,劇的な演出で成功している例です。
 ロッシーニの序曲はどの演奏も刺激が多いのが特徴で,中でも「ウィリアム・テル」「セビリアの理髪師」と同様に,この序曲は内容が素晴らしいです。

 室内オケかつ古楽器演奏では,マリナーをも上回る,非常に劇的・刺激的な演奏を披露しているのが,90年の録音でありますノリントン=ロンドン・クラシカル・プレイヤーズです。
 独特の「ため」といい,えげつないロッシーニ・クレッシェンドといい,飽きさせない演奏内容です。

 直線的な演奏といえば,ライナー=シカゴ響の58年の録音も良いでしょう。
 このころのシカゴ響は,パワーといい,機能性といい,世界一のスーパーオケと言えるのではないでしょうか。
 それを弾き出すためには,ライナーのような表現の演奏が効果的であったと言わざるを得ません。

 味わいのある演奏でありながら,時折見せる激しさが特徴なのが,ジュリーニ=フィルハーモニア管の59年の録音です。
 ジュリーニと言えば,晩年の粘り気のある演奏(ベートーヴェンやブラームス,ブルックナー,ドヴォルザークなどによく見られる)が印象的ですが,若かりし頃のこの演奏は,ジュリーニの激情が垣間見ることのできる,貴重な記録としても意味のある音源でしょう。

 比較的最近の録音で挙げるとなると,シャイーの演奏(95年の録音)ということになります。
 彼は,ロッシーニの序曲集を2回(ナショナル・フィルとスカラ座フィル)録音しておりますが,いずれも素晴らしい演奏内容となっておりますが,私個人としては新盤のスカラ座・フィルの方を好みます。
 上記のような演奏を聴いていますと,ゴージャスなカラヤンの演奏などは,豪華さだけの飾り物の演奏に聞こえてしまいます。