【推薦盤】
この曲は「ウィリアム・テル」序曲同様に,曲自体に味があるため,単に直線的な演奏ではしっくりきません。
その点,チェリビダッケ=ミュンヘン・フィルの86年の日本ライヴは,例の如くじっくりとしたテンポ設定でありますが,非常に丁寧でかつ起伏のある情報量の多い演奏であります。
終盤のロッシーニ・クレッシェンドもしっかりと決まっており,名盤と言えます。
ちなみに,ミュンヘンでの95年ライヴも同様のスタンスですが,録音の良さから日本ライヴを選びたいです。
マリナー=アカデミー室内管の76年の録音ですが,機動力のある室内オケをフルに活用し,劇的な演出で成功している例です。
ロッシーニの序曲はどの演奏も刺激が多いのが特徴で,中でも「ウィリアム・テル」「セビリアの理髪師」と同様に,この序曲は内容が素晴らしいです。
室内オケかつ古楽器演奏では,マリナーをも上回る,非常に劇的・刺激的な演奏を披露しているのが,90年の録音でありますノリントン=ロンドン・クラシカル・プレイヤーズです。
独特の「ため」といい,えげつないロッシーニ・クレッシェンドといい,飽きさせない演奏内容です。
直線的な演奏といえば,ライナー=シカゴ響の58年の録音も良いでしょう。
このころのシカゴ響は,パワーといい,機能性といい,世界一のスーパーオケと言えるのではないでしょうか。
それを弾き出すためには,ライナーのような表現の演奏が効果的であったと言わざるを得ません。
味わいのある演奏でありながら,時折見せる激しさが特徴なのが,ジュリーニ=フィルハーモニア管の59年の録音です。
ジュリーニと言えば,晩年の粘り気のある演奏(ベートーヴェンやブラームス,ブルックナー,ドヴォルザークなどによく見られる)が印象的ですが,若かりし頃のこの演奏は,ジュリーニの激情が垣間見ることのできる,貴重な記録としても意味のある音源でしょう。
比較的最近の録音で挙げるとなると,シャイーの演奏(95年の録音)ということになります。
彼は,ロッシーニの序曲集を2回(ナショナル・フィルとスカラ座フィル)録音しておりますが,いずれも素晴らしい演奏内容となっておりますが,私個人としては新盤のスカラ座・フィルの方を好みます。
上記のような演奏を聴いていますと,ゴージャスなカラヤンの演奏などは,豪華さだけの飾り物の演奏に聞こえてしまいます。
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