クラシックにくびったけ  
     

A・ヴィヴァルディ
 
協奏曲集「和声と創意への試み」作品8より「四季」

【特選】
  ヴァイオリン:フィリックス・アーヨ
  演奏:イ・ムジチ合奏団
  録音:1959年

【推薦①】
   ヴァイオリン:ヴェルナー・クロツィンガー
   指揮:カール・ミュンヒンガー
   演奏:シュトゥットガルト室内管弦楽団
    録音:1958年

【推薦②】
   ヴァイオリン:アラン・ラウデイ
   指揮:ネヴィル・マリナー
   演奏:アカデミー室内管弦楽団
   録音:1969年

【推薦③】
   ヴァイオリン:アリス・アーノンクール
  指揮:ニコラウス・アーノンクール
  演奏:ウィーン・コンツェントゥス・ムジクス
  録音:1977年

【推薦④】
  ヴァイオリン:ファビオ・ビオンディ
  演奏:エウローパ・ガランテ
  録音:1991年

【推薦⑤】
  ヴァイオリン:エンリコ・オノフリ
  演奏:イル・ジャルディーノ・アルモニコ
  録音:1993年

【と盤①】
  ヴァイオリン:ヒュー・ビーン
  指揮:レオポルト・ストコフスキー
  演奏:ニュー・フィルハーモニア管弦楽団
  録音:1966年

【と盤②】
  リコーダー:ピアーズ・アダムス
  演奏:レッド・プリースト
  録音:2003年

 

【解説】

 「和声と創意への試み」のうち, 第1集すなわち第1曲から第4曲までの「春」「夏」「秋」「冬」の「四季」は,クラシックのバロック音楽では名曲中の名曲として親しまれております。

 「四季」の各協奏曲は,それぞれ3つの楽章からなっており,それぞれの楽章にはソネットが付されていて,このソネットがあることから,この曲は標題音楽に分類されます。

 楽器編成は,独奏ヴァイオリン,第1・2ヴァイオリン,ヴィオラ,通奏低音と単純な編成となっており,通奏低音は通常チェロやチェンバロなどが使用されます。

 各曲とも親しみやすい音楽となっており,音楽で表されている情景が目に浮かぶような曲ばかりであります。

【特選盤】
 特選をどの演奏にしようか非常に迷いましたが,いつも刺激的な演奏ばかりをセレクトしておりましたので,今回に限ってはスタンダードな演奏をセレクトします。
 ということで,イ・ムジチ合奏団の演奏を推薦しましょう。

 イ・ムジチの演奏では誰の独奏が良いかということがありますが,私が所有している3種類の演奏の中では,フェリックス・アーヨの独奏(59年録音)が素晴らしいです(イ・ムジチとしては2回目の録音)。
 アーヨの艶のあるヴァイオリンの音色は,正にこの曲の代名詞と言っても良いくらいの録音で,演奏もスタンダード中のスタンダード,王道の「四季」と言えるでしょう。
 過剰な表現は一切なく,テンポもゆったりとしたもので,同じイ・ムジチの他の演奏(特にミケルッチ盤)は,アーヨ盤と比較してテンポが速く,イ・ムジチの演奏としてはせっかちな感じがします。
 59年の録音とは思えないくらい鮮明で,LPとCDを所有しておりますが,やはりLPの録音がアーヨの独奏が素晴らしく聴けます。

【推薦盤①】
 その他の推薦盤としては,まずは,58年録音のミュンヒンガー=シュトゥットガルト室内管(独奏:ヴェルナー・クロツィンガー)をお薦めしましょう。
 ミュンヒンガーのバロック音楽やモーツァルトは,どれを取っても渋みを感じさせるとともに,懐かしさを感じる演奏が多いのですが,この「四季」についても同様の印象を受けます。
 録音も含めて,特別な演奏とは思えないのですが,私にとって「四季」の演奏では外せない録音です。

【推薦盤②】
 ここからは,刺激的な演奏をお薦めします。
 革新的な「四季」の録音を最初に行ったのが,マリナー=アカデミー室内管(独奏:アラン・ラヴデイ)の69年の録音です。
 マリナーは,モーツァルトなどを聴いている限りでは,刺激的な演奏をするタイプの指揮者ではないのですが,何を思ったのか「四季」ではやってくれております。
 かの音楽評論家の吉田秀和氏が絶賛した演奏で,「静止した均衡ではなく、過多から来るダイナミックな活動であり,その行きすぎ,それこそバロックだ」と述べておりますが,実際に聴いてみますと,テンポは一定なのですが,緩徐楽章ではテンポを抑えており,リズムの刻み方もスタッカート的です。
 さらには,ヴァイオリンやチェロの即興的な音も入っているのが最大の特徴です。

【推薦盤③】
 マリナー盤よりもさらに刺激的なのが,77年録音のアーノンクール=ウィーン・コンツェントゥス・ムジクス(独奏:アリス・アーノンクール)の演奏です。
 刺激的というよりも過激という表現が合っているような演奏で,ノンビブラートでスタッカートを多用し,驚くほど走る部分があるという,いわゆる古楽解釈の最も先鋭的な形を伝えている一枚だと思います。
 ちなみに,独奏はアーノンクールの奥様です。
 この曲の演奏により,アーノンクールは一躍,時の人となり,全世界から注目を受けることとなりました。

【推薦盤④】
 91年に設立したばかりのエウローパ・ガランテのデビュー盤の演奏も過激な表現ではアーノンクールに負けておりません。
 シシリアの若手,ビオンディの登場は非常に衝撃的で,私が東京在住中にCDショップで試聴してすぐに気に入り,購入したものです。
 演奏とは別に,クラシック音楽のジャケットとは思えないデザインも異様なものでありました。
 面白いことに,合奏を始めるときの合図は,ビオンディの息を吸い込む音なのですが,これが結構大きい音なのです。
  ちなみに,この録音から9年後の2000年に,この曲を再録したのですが,こちらはさらに刺激的・過激な表現になっております。
 
【推薦盤⑤】
 その他の演奏では,93年録音のイル・ジャルディーノ・アルモニコ(独奏:エンリコ・オノフリ)も,エウローパ・ガランテ同様に非常に刺激的な「四季」で,よく両者の演奏は比較されることが多いです。
 ちなみに,オノフリは指揮者として,モーツァルトの交響曲第40番とセレナード第6番「セレナータ・ノットゥルナ」を録音しておりますが(オーケストラはディヴィーノ・ソスピーロ),この2曲も正に大穴的演奏です。

【と盤①】
 「と盤」の紹介ですが,まずは,68年録音のストコフスキー=ニュー・フィルハーモニア管(独奏:ヒュー・ビーン)の演奏から。
 何を勘違いしてか,大編成のオーケストラでこの曲を演奏していることからして,ストコフスキーらしいなぁ・・・と思ってしまいますが,これにより独奏楽器があまり目立っていないのが最初の印象。
  さらには,各楽章の最後は決まってリタルダント・・・。
 最大の勘違い演奏とも言えますが,ストコフスキーらしいショーマンシップと言えばそれまでですけれど,違和感アリアリの演奏です。

【と盤②】
 もう1枚はレッド・プリーストの演奏(2003年録音)です。
 97年に結成されたレッド・プリースト(独奏:ピアーズ・アダムス)と名づけられたこのグループは,独自のバロック音楽スタイルを世界中に広げております。
 CDも多くリリースされ,意外(?)と高い評価を受けており,その中でも「四季」は,レッド・プリーストにとって多くの可能性を引き出たチャレンジ精神をかきたてる音楽であります。
 私も,旭川市大雪クリスタルホールにおいて,レッド・プリーストのこの曲を聴きましたが,奇想天外の演奏内容であり,一言で言うと「ぶったまげる四季」です。
 非常にウィットに富んだ音楽づくりで,刺激的とか過激とかで表現できる音楽ではありません。
 メンバーはたった4人,独奏というかソロはピアーズ・アダムスで,楽器は何とリコーダー。
 超絶的なテクニックを駆使し,おとぎの世界の「四季」を描き出しております。
 一聴の価値の価値があります,いや必聴です。
 ※「と盤」とは,とんでもない演奏の録音を指すものです。