2006年11月26日放送 ☆☆☆ ★★★★★
モーツァルト作曲
ピアノ・ソナタ第11番イ長調K.331「トルコ行進曲付き」より第3楽章
ピアノ独奏:アンドレアス・シュタイアー
2004年3月 スタジオ録音
<推薦評>
前回のこの局の寄稿の際に(ピアノ:ファジル・サイ),最後の部分で次のように書いた。
『アンドレアス・シュタイアーの演奏で,トルコ行進曲で唖然とするほどの斬新なアプローチをしているらしい。まだ未聴だが,早速注文しておりますので,届き次第内容によっては放送で取り上げたい』と。
結局,その年の11月の「モーツァルト生誕250周年特集J」で,予告どおり取り上げたのであるが,この放送を聴いた方や,このCDを聴いた方は,その演奏スタイルに驚かれたことと思う。
ここで,シュタイアーを若干紹介したいと思う。
シュタイアーは1955年ドイツ生まれのチェンバロ,フォルテピアノ奏者で,ムジカ・アンティクヮ・ケルンの一員として,その後は古楽器オーケストラとの共演を数多くこなし,バロック初期からロマン派まで幅広いレパートリーを持っている。
さて,このCDが発売される前にも,このピアニストの名前は聞いており,一部の演奏(シューベルト)も聴いていたが,その印象については個性的ではあるものの,通常のピアノではなくフォルテピアノを使用しているためでもあり,印象度はそれほど高い演奏ではなかった。
ところが,である。
このCDの噂を聞いて,これは聴いてみようと思い購入し,早速聴くことになったのであるが,抱腹絶倒の大爆演であった。
数々の「トルコ行進曲」を聴いてきたが,このような衝撃的な演奏に接することは今までなく,あえて言うならばグレン・グールド盤以来か。
ある意味,この演奏をCD化した関係者に敬意を表したい。
さて,その演奏であるが,第1楽章の出だしから派手で独自の装飾音がちりばめられており,この辺はファジル・サイ盤の成功例にもあるとおり,むしろ心地よい遊びに酔いしれることができる。
問題はその後で,第3楽章の「トルコ行進曲」である。
あえて例えるなら「モーツァルト作曲「トルコ行進曲」ジャズヴァージョン」とでも言いましょうか・・・。
装飾音という次元のレヴェルを遙かに超えており,シュタイアーのやりたい放題。
「ねぇ,かなり変わったトルコ行進曲がCD化されたのだけど,聴いてみない?」と誰かに聴かせたくなる演奏である。
正直申し上げまして,同曲のファースト・チョイスとしては,絶対にお薦めできないが,音楽を楽しむという意味では貴重なCDである。
それにしても,シュタイアーの即興性には驚かせられるが,この新鮮さは前述のファジル・サイ盤を聴いたとき以来,あるいはそれ以上と言えるだろう。
しかも,芸術性も併せ持った名演・奇演である。
今後のシュタイアーのCDには目が離せない。
また,最近,このシュタイアーの演奏も真っ青のCDが発売されたと聞いた。
ジークベルト・ランペの演奏がそれであり,今年(平成20年)6月に発売されたもので,現在注文中である。
シュタイアー同様にフォルテピアノでの演奏で期待したい。
その演奏内容が紹介すべきものであった場合,番組やこのHPにおいても記したい。
せっかくなので,「トルコ行進曲」を含む,モーツァルトのピアノ・ソナタ第11番について,シュタイアー以外のお薦めのCDを録音年代順に列記しておく(あくまでも私見であるが)。
リリー・クラウス盤 1956年録音
グレン・グールド盤 1965年録音
内田光子盤 1982年録音
エリック・ハイドシェック盤 1991年録音
イーヴォ・ポゴレリチ盤 1992年録音
ファジル・サイ盤 1997年録音