2008年7月27日放送 ☆☆☆☆☆
ヘルメスベルガー作曲
悪魔の踊り
指揮:小澤征爾
演奏:ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
2002年1月1日 ライヴ録音
1年に1度,楽しみにしているコンサートがある。
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団のNew Year Concert(ニュー・イヤー・コンサート)がそれである。
英語表記では上記であるが,正式なドイツ語表記としてはDas
Neujahrskonzert der Wiener Philharmoniker(ダス・ノイヤールスコンツェルト・デア・ヴィーナー・フィルハーモニカー)といい,1月1日に行われる世界的行事の1つである。
ウィーン楽友協会大ホール(ムジーク・フェラインザール)で行われるコンサートで,主にシュトラウス・ファミリーのワルツやポルカなどで華やかに開催される。
ムジーク・フェラインザールは,黄金のホールと呼ばれ,私も2006年に実際に中にはいることができたのであるが,それについては別の機会(コーナー)で語ることとしよう。
さて,このニュー・イヤー・コンサートについて,少々記述したいと思う。
このコンサートの歴史は古く,初開催は1939年12月31日に遡る。
この年と1950年だけが1月1日開催ではなく(1950年はオーストリア初代大統領が12月31日に死去したため1月14日に延期),1940年は開催されていない(前年の大晦日開催のため)。
1939年の初開催時の最初の曲目はシュトラウス2世の「アンネン・ポルカ」で,この年は全てシュトラウス2世の曲であった。
現在のように,アンコールの最後の2曲がシュトラウス2世のワルツ「美しく青きドナウ」とシュトラウス1世の「ラデツキー行進曲」になったのは1950年からであるが,2005年は東南アジアをおそった大津波の影響があり,その慰霊から祝祭的な曲である「ラデツキー行進曲」がカットされた。
指揮者は歴代13名が務めており,初代はクレメンス・クラウスで13年間務めた。
一番多く務めたのが当時のウィーン・フィルハーモニー管弦楽団コンサート・マスターのウィリー・ボスコフスキーで,クレメンス・クラウス死去に伴い代役として1955年から引退の1979年までの25年間務め,ヴァイオリンを片手に指揮をする正にシュトラウス・スタイルが好まれた。
その後ロリン・マゼールが引き継ぎ,1986年までの7年間指揮をしたが,その後は様々な指揮者がこの祭典の指揮を務めている。
また,毎年何かしらのハプニングが仕掛けられているのも特徴で,昔は鉄砲(もちろん空砲)が鳴ったり,平和の象徴である豚の着ぐるみが出てきたり,指揮者の携帯電話が鳴ったり(ヤンソンス),列車の車掌の格好で指揮をしたり(メータ),指揮者一人で10カ国語の「明けましておめでとう」を言ってみたり(マゼール),楽団員ゆかりの国の言葉で「明けましておめでとう」を言ってみたり(小澤征爾),と工夫されている。
さらには,毎年,過去のニュー・イヤー・コンサートでは演奏されたことのない曲がお目見えするのも楽しみで,小澤征爾の2002年はシュトラウス2世の「エリーゼ・ポルカ」やこのヘルメスベルガーの「悪魔の踊り」がそうであった。
さて,この悪魔の踊りであるが,私自身,小澤征爾指揮のニュー・イヤー・コンサートで初めて聴いたのであるが,その時の衝撃は非常に大きく,私だけではなくこのコンサートを聴いた方の多くもそうであったに違いにない。
この年のニュー・イヤー・コンサートの中で,最大の盛り上がりを見せたのも間違いなくこの曲の時で,曲の終了したときの拍手の大きさが物語っている。
さて,曲の内容であるが,前半から壮快なテンポで進められ,後半にワルツがあってから大きく盛り上がりを見せるもので,ウィーンの雰囲気を持った曲である。
曲自体が技術的に難しいと思われることから,逆に早い演奏を求めたくなる曲で,その点ではグリンカ作曲の歌劇「ルスランとリュドミラ」序曲と同じように思う。
この曲のCDは,小澤征爾のこのニュー・イヤー・コンサート盤の他には1種類しか発売されていないことから(吹奏楽ヴァージョンは他にもあるようである),演奏の比較は難しいが,この小澤征爾の演奏はテンポが早く,先述の欲求を十分に満たしてくれる演奏である。
さらには,後半のワルツの場面では,十分な溜めを作りながら曲を進行させ,最後の盛り上がりにつなげるという手法は大いに気に入っている。
小澤征爾は,テンポ設定にはかなり気を遣う指揮者であり,その意味では曲を聴いていての面白みが欠けることがあり(というか多い),この曲に関しては少し大げさすぎるほどのテンポの揺れは,彼にとって大見得を切っているように思われ,その点では珍しい演奏と言えるのではないか。
せっかくなので,この曲について,小澤盤以外のお薦めのCDを紹介したいところであるが,他に1種類しかCDが出ていないことから,小澤征爾の名演奏を列記しておく(あくまでも私見であるが)。
マーラー作曲
交響曲第1番「巨人」 ボストン交響楽団(1977年)
交響曲第2番「復活」 サイトウ・キネン・オーケストラ(2000年)
ドヴォルザーク作曲
交響曲第8番 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団(1992年)
交響曲第9番「新世界より」 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団(1991年)
チェロ協奏曲 チェロ:ロストロポーヴィチ ボストン交響楽団(1985年)
ラフマニノフ作曲
ピアノ協奏曲第1番 ピアノ:ツィマーマン ボストン交響楽団(1997年)
ピアノ協奏曲第2番 ピアノ:ツィマーマン ボストン交響楽団(2000年)
メシアン
トゥーランガリーラ交響曲 トロント交響楽団(1967年)
バルトーク作曲
ヴァイオリン協奏曲第2番 ヴァイオリン:ムター ボストン交響楽団(1991年)
オッフェンバック作曲
歌劇「ホフマン物語」 フランス国立管弦楽団(1989年)