マーラー作曲
交響曲第9番ニ長調
指揮:クラウス・テンシュテット
演奏:ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団
1979年5月 スタジオ録音
<推薦評>
テンシュテット指揮のマーラーの交響曲はどれを取っても名演奏で,その表情の激しさ,楽器の鳴らし方は壮絶である。
この演奏は,曲全体にテンポの揺れがあり,テンシュテット最晩年(1990年代)の他のマーラーの交響曲と比較して,若干楽器の響きが硬く感じる。
テンシュテットは,マーラーの交響曲は多くの録音を残しているが,基本的にはこの演奏同様に,1970年代後半から80年代前半にかけての一連のEMIに残したスタジオ録音と,それ以降1990年代までのライヴ録音に大きく分けられる。
この交響曲第9番の場合は,正規盤としてはこの録音しか残されていない(CD−Rでは1988年のライヴ録音(演奏はフィラデルフィア管弦楽団)があるが)。
第1楽章では,テンシュテットのマーラーでよく聴くことができる,テンシュテットの魅力でもある過度な表情付けというものが,他と比較して見られないのが残念であるが,それでも他の指揮者と比較すると十分に高揚感溢れる演奏となっている。
マーラーが「田舎の楽隊風に」と楽譜に書き込みを行った第2楽章については,どの指揮者も都会的な演奏を示すが,テンシュテットにおいても例外ではなく,その中に美しさが時折見られる。
第3楽章は非常に激しい楽章であるが,晩年のテンシュテットに見られる迫力は若干抑えられているような気がする。
だが,その中に曲を鋭く抉るところもあり,楽章全体としては安心して聴くことのできる演奏となっている。
そして,私がこの曲で気に入っている第4楽章のアダージョであるが,テンシュテットのテンポ設定は遅くもなく早くもなく,ゆったりと聴き入ることができ,重心の低い演奏となっている。
響きも非常に落ち着いており,そのためか後半部分では迫力不足を感じてしまう部分もあるが,美しさがこれを上回っている印象を受ける。
最後になるが,他の名演奏を一言で言うと,レヴァイン指揮のものは非常に表情が柔らかく(いかにもレヴァインらしい),バーンスタイン指揮のものは現代音楽のような過激さ(特にベルリン・フィル盤)となる。
せっかくなので,マーラーの交響曲第9番の推薦盤を録音年代順に,さらにテンシュテットが指揮をしている,お薦めのCDを列記しておく(あくまでも私見であるが)。
今気付くと,テンシュテットのマーラーの交響曲第9番もレヴァイン盤,バーンスタイン(ベルリン・フィル)盤も,1979年に録音されたもので,正にこの年はマーラーの交響曲第9番の当たり年であったようだ。
マーラー作曲 交響曲第9番の推薦CD
ジェイムズ・レヴァイン指揮 フィラデルフィア管弦楽団(1979年)
レナード・バーンスタイン指揮 ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団(1979年)
レナード・バーンスタイン指揮 アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団(1985年)
テンシュテットのお薦めCD
ベートーヴェン
交響曲第9番「合唱付き」 ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団(1985年)
ブルックナー
交響曲第4番「ロマンティック」 ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団(1984年)
シューマン作曲
4本のホルンと管弦楽のためのコンツェルトシュテュック ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団(1978年)
マーラー
交響曲第1番「巨人」 シカゴ交響楽団(1990年)
交響曲第2番「復活」 北ドイツ放送交響楽団(1980年)
交響曲第5番 ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団(1988年)
交響曲第6番「悲劇的」 ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団(1991年)
交響曲第7番「夜の歌」 ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団(1993年)
交響曲第8番「千人の交響曲」 ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団(1991年)
交響曲第10番 ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団(1978年)
コダーイ
組曲「ハーリ・ヤーノシュ」 ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団(1983年)