2010年10月3日放送 ☆☆☆☆ ★★★★
ストラヴィンスキー作曲
バレエ「春の祭典」
指揮:ヴァレリー・ゲルギエフ
演奏:サンクトペテルブルク・キーロフ歌劇場管弦楽団
1999年7月 スタジオ録音
<推薦評>
まず,最初に断っておくが,ストラヴィンスキーの「春の祭典」の入門CDとしては絶対にお勧めできないのがこの演奏である。
それというのも,あまりに個性的過ぎるからである。
話は古くなるが,私がクラシック音楽にくびったけになったのは中学1年生の時で,最初にまともに全曲を聴いた交響曲がベートーヴェンの第5交響曲である,かの有名な「運命」である。
その最初に聴いた演奏が,ヴィルヘルム・フルトヴェングラー指揮の個性的な演奏であり,個性的な演奏からクラシックにはまってしまった結果,以後,そのような演奏を求め続けて現在に至ってしまった。
つまり,クラシック音楽を聴く際に,その演奏の個性を探ってしまう癖が付いてしまい,非個性的な演奏を自然と好まなくなってしまい,必然的に演奏の好き嫌いや指揮者の好き嫌いが「個性」という観点に大きく左右されてしまう結果になってしまったのである。
まぁ,そんな自分のクラシック音楽遍歴が悪いとは思っていないのであるが,昨今の非個性的な指揮者が氾濫する中,新録音でなかなか良い演奏(個性的な演奏)に出会える機会が少ないのが玉に瑕ってところか。
そのような中,ストラヴィンスキーの「春の祭典」の決定盤がこの演奏であり,ここでゲルギエフは非常に個性的な演奏を披露してくれている。
繰り返すが,最初にこの演奏を聴くのではなく,例えばドラティの名盤やシャイーの演奏(後記)などから入るのが適切であると思うし,曲が現代の音楽であるから,十分にこれらの演奏で楽しむことができ,さらに録音も良く,その後にこのゲルギエフ盤やマルケヴィチ盤を聴くことで,曲や演奏の魅力も倍増することであろう。
まず,この演奏は1999年のスタジオ録音であるが,非常に録音が優秀で,デッドな録音であるからこそ,音の情報量が多い。
さらには決してスタジオ録音には聴こえず,ライヴ録音ではないかと思ってしまうほど即興的な演奏に聴こえるのが不思議だ。
まず第1部であるが,その冒頭から静寂感があり,録音の良さから各楽器の動きが明瞭であり,特にピッコロのセンスの良さは目を見張るものがある。
テンポの揺れも尋常ではなく,明暗のメリハリが強烈に利いており,それでいて大きく違和感がないところがゲルギエフのセンスであろうか。
第2部は,第1部に増して個性的な演奏が展開されており,各パートの色彩感が素晴らしく,オーケストラの技量と柔軟性が発揮されている。
テンポを一気に落としたり,アーティキュレーションの表現を誇張したり新発見の連続で,そして曲の最後の最後で,これまでの演奏では考えられないような強烈なテンポダウンが聴き手を襲うのである。
この強烈なパンチは,今まで聴いてきた「春の祭典」ではもとより,クラシック音楽全般の演奏でも,およそ考えられない展開であり,あえて比較する材料といえば,古い演奏であるが,ベートーヴェンの第9交響曲の第4楽章コーダの最後の最後にリタルダントを持ってきた指揮者ウィレム・メンゲルベルクの演奏くらいなもので,そのくらい衝撃的であり,正に「大どんでん返し!」。
せっかくなので,ストラヴィンスキーの「春の祭典」の推薦盤を録音年代順にお薦めのCDを列記しておく(あくまでも私見であるが)。
また,ゲルギエフ指揮の名演奏については,あまりに多すぎて書くことができない。とにかくゲルギエフのロシア音楽(チャイコフスキー,プロコフィエフ,ストラヴィンスキー,ショスタコーヴィチなど)は全て素晴らしく,最近はマーラーにもその才能を発揮している。
ストラヴィンスキー作曲 バレエ「春の祭典」の推薦CD
イーゴリ・マルケヴィチ指揮 フィルハーモニア管弦楽団(1959年)
イーゴリ・マルケヴィチ指揮 ワルシャワ国立フィルハーモニー管弦楽団(1962年)
エフゲニー・スヴェトラーノフ指揮 ソヴィエト国立交響楽団(1966年)
アンタル・ドラティ指揮 デトロイト交響楽団(1981年)
リッカルト・シャイー指揮 クリーヴランド管弦楽団(1985年)