2013年4月28日放送 ☆☆☆ ★★
ドヴォルザーク作曲
交響曲第8番ト長調作品88「イギリス」
指揮:コンスタンティン・シルヴェストリ
演奏:ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団
1957年 スタジオ録音
<推薦評>
ドヴォルザークの交響曲は、交響曲第7番以前にはブラームスの影響が強く見られており、その一方で第9番「新世界より」では、ドヴォルザークのアメリカ滞在の際に聞いた音楽から大きく影響を受けているため、この交響曲第8番はチェコの作曲家としてのドヴォルザークの最も重要な作品として位置づけることができる。
ただ、この曲においてもブラームスの影響がないわけではなく、第1楽章の展開部や再現部の処理、終楽章が変奏曲であることなど、形式面ではブラームスの交響曲第4番との共通性が見られる。
曲調は、チェコ・ボヘミアの長閑で明るいのが特徴で、知名度こそ第9番の「新世界交響曲」に劣るものの非常に人気が高い交響曲で、私自身も第9番よりも好んで聴くことが多い。
ドヴォルザークは、これまで楽譜の出版を契約していた出版社と作曲料金などでもめた結果、契約を一方的に破棄して、ロンドンの出版社に乗り換えてこの作品を出版したため、「イギリス」という副題が付されていたが、音楽の内容はイギリスというよりもむしろチェコであり、最近では副題を記載しないことも多くなってきた。
さて、シルヴェストリの演奏であるが、ソナタ形式にある呈示部や展開部、再現部でメロディが奏でられるが、それぞれが明らかに違う奏で方をする特徴があり、第1楽章がその最たるものである。
第1楽章のメロディが、後半になるほど奏で方が色濃くなっていくという手法をとっており、ライヴ的な感覚で聴くことができる非常に面白い指向である。
この手法は第3楽章においても聴くことができ、時に色濃く、時に軽くといった、伸縮自在のメロディの奏で方をする演奏は、この曲だけでなくあまり聴くことのできない手法であるといえる。
また、強奏部分と弱奏部分とのメリハリ、特に弱奏部分の柔らかさと響きが非常に美しく感じられ、これにより曲の哀愁を際立たせる手法もこの曲の魅力を引き出している要因といえるのではないか。
ただ、ロンドン・フィルの力量と響きが、残念ながらシルヴェストリの期待に応えきれていない気がする。
当時のロンドンのオーケストラ事情は、圧倒的にロンドン交響楽団の知名度や実力が飛びぬけており、フィルハーモニア管弦楽団、そしてBBC交響楽団、ロンドン・フィル、ロイヤル・フィルが続くといった状況で、ロンドン・フィルがその後、指揮者のショルティやテンシュテットにより飛躍的に実力が向上し、イギリスを代表するオーケストラとして現在に至るのであるが、当時の実力を知りえる演奏でもあるといえる。
余談であるが、イギリスはドイツやオーストリア、イタリアと並んで音楽の盛んな国であるが、一方でその割には古典派・ロマン派などの自国出身の著名な作曲家がいない。
これは、他国から作曲家が多く訪れたり、出版社が楽譜を数多く発行するなどといった影響もあるかと考えられる。
とはいうものの、イギリス、そしてその中心のロンドンのオーケストラの歴史は非常に面白い。
ロンドンの主要オーケストラは、歴史が浅かったり、特定の人物(指揮者)の関わりが多かったりするのだ。
そもそも、イギリスのトップ・オーケストラといえばロンドン交響楽団であるが、このオーケストラでさえも、自主運営となったのは1904年(それ以前はクイーンズホール管弦楽団)のことで、先に挙げたオーケストラの発足年は、BBC交響楽団(1930年)、ロンドン・フィル(1932年)、フィルハーモニア管弦楽団(1945年)、ロイヤル・フィル(1946年)で、どのオーケストラも歴史が浅い。
さらには、ここに挙げた全てのオーケストラに関係している人物が、トーマス・ビーチャムというイギリスの指揮者である。
ビーチャムは、製薬会社の御曹司として生まれ、ろくに音楽の勉強をしているわけではなかったが、アマチュア・オーケストラの指揮などを行っており、代役でハレ管弦楽団の指揮をしてプロデビューをしたという変わり種の指揮者で、上記オーケストラの関わりは以下のとおりである。
まず、ロンドン交響楽団は1915年に首席指揮者に就任(1916年まで)、BBC交響楽団の創設時に首席指揮者を希望したものの叶わず、BBC交響楽団に負けないオーケストラを自らの私財を投げ打ちロンドン・フィルを創設し、楽団運営及び指揮をしていたが、第二次世界大戦が勃発すると楽団運営を放棄してアメリカへ渡り、終戦後、フィルハーモニア管弦楽団が創設されると初の演奏会で指揮を行い、その翌年にはロイヤル・フィルを創設し亡くなる1961年まで首席指揮者として活動した。
余談が長くなってしまったが、このように、ビーチャムの歴史がロンドンのオーケストラの歴史といっても過言ではない。
最後に、ドヴォルザークの交響曲第8番の推薦盤を録音年代順に、さらにシルヴェストリが指揮をしている、お薦めのCDを列記しておく(あくまでも私見であるが)。
ドヴォルザーク作曲 交響曲第8番の推薦CD
ブルーノ・ワルター指揮 コロンビア交響楽団(1961年)
ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団(1961年)
イシュトヴァーン・ケルテス指揮 ロンドン交響楽団(1963年)
ジョージ・セル指揮 クリーヴランド管弦楽団(1970年)
カルロ・マリア・ジュリーニ指揮 ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団(1990年)
小澤征爾指揮 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団(1992年)
シルヴェストリのお薦めCD
チャイコフスキー
交響曲第6番「悲愴」 フィルハーモニア管弦楽団(1959年)
プロコフィエフ
組曲「三つのオレンジの恋」 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団(1961年)
ドヴォルザーク
交響曲第7番 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団(1961年)
交響曲第9番「新世界より」 フランス国立放送管弦楽団(1950年頃)
序曲「謝肉祭」 ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団(1962年)
ストラヴィンスキー
3楽章の交響曲 フィルハーモニア管弦楽団(1961年)
デュカス
交響詩「魔法使いの弟子」 パリ音楽院管弦楽団(1958年)
交響詩「魔法使いの弟子」 ボーンマス交響楽団(1968年)