川畠成道ヴァイオリン・リサイタル

 

2007年3月13日 19時~

旭川市大雪クリスタルホール音楽堂

 

<曲目>

ヘンデル作曲

 ヴァイオリンと通奏低音のためのソナタイ長調作品1-14第5番

モーツァルト作曲

 ヴァイオリンとピアノのためのソナタ変ロ長調K.454

メンデルスゾーン作曲(ハイフェッツ編曲)

 歌の翼に

ブラームス作曲

 ハンガリー舞曲第7番

リムスキー=コルサコフ作曲

 熊蜂の飛行

クライスラー作曲

 愛の喜び

グノー作曲

 アヴェ・マリア

ワックスマン作曲

 カルメン幻想曲

 

<感想>

 平成18年度最後となる旭川市大雪クリスタルホールの自主文化事業は,「川畠成道ヴァイオリン・リサイタル」であったが,ヴァイオリンの音色を楽しむことのみならず,クラシック音楽の魅力を十分に知らしめる非常に有意義なコンサートであった。

 川畠成道は,皆様ご存じのとおり,8歳の頃に視覚障害を患った,ほとんど目が見えないヴァイオリニストであるが,そのようなハンディキャップを感じさせるどころか,リサイタル中は,聴衆の我々を別の世界に連れて行ってくれた感じさえした。

 さらには,大雪クリスタルホールにおいて,演奏者と会場の聴衆が一体となり,不思議な次元となっていたことが印象深く,あまり類を見ない状況であった(私がクリスタルホールで聴いた演奏会では,数年前のデニス・マツーエフのピアノ・リサイタル以来であろうか)

 当日の曲目は,第1部がヘンデルとモーツァルトのヴァイオリン・ソナタ,第2部は川畠氏が得意とするヴァイオリンの小品を6曲,そしてアンコールと言うよりも第3部といった方が良いかと思うが,マイク・パフォーマンスを入れての,ヴァイオリンの小品5曲と,内容も充実していた。

 さて,第1部の演奏であるが,ヘンデルとモーツァルトのヴァイオリン・ソナタを川畠氏は選曲したのであるが,一般的にはメジャーではないこれらのソナタを選曲したことに少々驚くも,その演奏内容は十分に納得できるものであった。

 後述の第2部及びアンコールにおいて,川畠氏のテクニックを十分に発揮することができる選曲となっていることから,むしろ川畠氏としては珍しいレパートリー()を披露したが,新鮮な感じを受けつつも,その演奏内容は素晴らしいものであった。

 残念ながら,比較対照する他の演奏がないことと,曲自体を聴き込んでいないことからから一般的な表現となってしまったが,川畠氏の表現力と独特のヴァイオリンの音色を聴かせてくれた。

 ただ,他の演奏と比較して,ところどころ若干堅いイメージを感じさせた部分もあった(特にヘンデル)

 次に,第2部の演奏であるが,川畠氏の定番であるメンデルスゾーンの「歌の翼に」やクライスラーの「愛の喜び」,そしてグノーの「アヴェ・マリア」ではしっとりと曲を聴かせ,ブラームスの「ハンガリー舞曲第7番」やR=コルサコフの「熊蜂の飛行」ワックスマンの「カルメン幻想曲」では,持ち前のテクニックを発揮し,すっかり旭川の聴衆の心を鷲掴みした感があった。

 特記したいのは,最後の曲であるカルメン幻想曲で,一般的に同曲はサラサーテ作曲のものが有名であるが,あえてワックスマン作曲のものを選曲しているところに,川畠氏のこだわりを見た感じがした。

 最後にアンコールであるが,前述のとおりヴァイオリンの小品5曲を披露したのであるが,アンコールで登場したときにマイクを握っており,「何が始まるのか?」と思わせたが,それぞれの曲の説明や想い出などを披露するあたりは,サービス精神旺盛でリサイタル慣れをしていることが伺えた。

 アンコールの曲目は,ショパン作曲「ノクターン」,モンティ作曲「チャールダッシュ」,作曲者不詳「さくら変奏曲」,ディニーク作曲「ひばり」,サン=サーンス作曲「白鳥」と,どれもがアンコールピースとして有名な名曲揃いで,さらには川畠氏のアルバム(CD)でもおなじみの曲で,曲自体がすっかり川畠氏の手中にあるといった内容であった。

 ここでも特記したいのが「さくら変奏曲」で,この曲は「さくらさくら」の旋律を変奏していく単純なものであるが,その1つ1つの変奏が性格の違うものとなっており,それを見事に表現しており,さらにヴァイオリンの音色まで変えているところは,30代とは思えない表現力で,この辺が川畠氏の魅力あるいは持ち味といって良いであろう。

 最後に,川畠氏のヴァイオリンを支えていたのがピアノ伴奏の山口研生であるが,単に伴奏をするのではなく,協調性と表現力を併せ持った非常に良い伴奏者であり,室内楽などのピアノなどを改めて聴いてみたい気がしてならない。

 さて,ここで川畠氏のことを表す良い表現があったので紹介したい。

川畠氏がイギリスから戻り,日本において初めて楽壇に登場した際に演奏されたのが,メンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲であったが,その共演者である指揮者の小林研一郎氏が,川畠氏のヴァイオリンの演奏について「どこかにハンディがあったとしてもそれを超えるもの,もしかしたら神,あるいは宇宙のエネルギーのようなものが,特別な形で絶妙に補う何かを与えてくれるのではないかと思います。それを授かったのが川畠さんだと思います。」と語っている。

 正に,今回のリサイタルにおいてもこの表現がマッチしており,川畠氏は単にヴァイオリンを聴かせるのではなく,何か普通の演奏とは違った世界に誘(いざな)うヴァイオリンの音色をホールに創造していることに感心し,驚嘆した。

 また,選曲においても,一般のクラシック愛好家のみならず多くの方に親しむことができるものであったことも,市民(聴衆)にとって次回のリサイタルを期待させるものとなったことであろう。

 当日の曲目は,川畠氏の過去のアルバムやニューアルバムに収録されているものも多く,当日の演奏会に足を運ばれた方は,改めてCDで聴くのも良いのではないか。

 旭川市大雪クリスタルホールの平成18年度最後の自主文化事業の最後に,このような素晴らしい演奏会が聴くことができたのは,聴衆の1人として喜ばしいことであった。

 さらには,クリスタルホール音楽堂が満員となり,その音楽に集中している市民(聴衆)の皆様の姿にも感銘を受け,音楽のすばらしさを改めて感じた。

 

<川畠成道 プロフィール>

 

 1971年東京生まれ。

 8歳の時,アメリカ旅行中の薬害により視覚障害となり,10歳からヴァイオリンを始めたが,ヴァイオリニストとしてはかなり遅いスタートであったが,瞬く間にその才能を開花させた。

 桐朋学園大学で学び,恩師江藤俊哉氏の薦めでロンドンの英国王立音楽院の大学院に進学し,1997年に主席で卒業。

 175年を誇る英国王立音楽院の歴史の中で2人目になる「スペシャル・アーティスト・ステイタス」の称号を与えられた。

 1998年3月,いきなりサントリーホールという檜舞台で,小林研一郎指揮による日本フィルハーモニー交響楽団との共演で鮮烈な日本デビューを果たした。

 以来,そのテクニック,表現力は非常に高い評価を得ており,現在はイギリスを本拠に,日本を代表するソリストの1人として,国際的な演奏活動を続けている。